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【生い立ち】
特に名のある家というわけでもないが、優秀な父のおかげでそれなりにお金はあって、まあそこそこ水準の高い暮らしはできていた。

父は仕事人間で滅多に家にはいなかった。だから今でもあまり父のことはよく知らない。
母はいわゆる教育ママで、金と名誉への執着が人一倍強い人だった。兄弟もいなかったし、メルヴィルの幼少の記憶はこの母に関するものばかりだ。あとは母にあてがわれた幼馴染のことがほんの少し。

魔法界の生まれであるが、両親はどちらも非魔法族として生まれてきたようだった。だからずっと周囲にコンプレックスを抱き、母なんかは我が子が魔法族として生を受けたと知った時には、それはもう大喜びだったと聞いている。母からの期待はあまりにも重くのしかかったが、幼いメルヴィルはそれに応えようと懸命に努力を続けた。何度熱を出しても、倒れても、血を吐いても。

やがて彼も例に漏れずオ・コニキュラタ魔法魔術学校に入学し、5年生になるとリングラヴィン寮に選ばれた。
幼い頃からの努力が実を結び、座学の成績は常に上位をキープしていたようだ。しかし魔法は少し苦手で、あれはいくつの頃だったか。


いつものように実家に帰省したある年のサマーホリデー、そこには学校で学んだ魔法の成果を見せて、と少女のようにねだる母の姿があった。魔法は苦手であったから、仕方がなくつい最近習ったばかりの変身術で誤魔化すことにして、とりあえず使い魔の姿に変身して見せた。母は大層喜んで、気は済んだ?それじゃあ戻ろう、と言いかけたメルヴィルは気付く。

─────戻れない!

大変な事実である。そういえば自分は変身するのも苦手なら(今回はたまたま成功したが)戻るのも苦手なんだった。完全に戻ることを忘れていた。おマヌケさんめ。混乱したメルヴィルは開いていた窓から逃げ出したのだが、慣れない飛翔に身体がついていけるわけもなく、しばらく飛んだところで呆気なく墜落。怪我も負ってしまった。どうしよう。ここはどこかの家の庭だろうか。大きな屋敷と立派な薔薇園、どうやら貴族かなにかの家らしい。

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作者名:疫病 | 作成日時:2022年5月5日 18時

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