白衣の麗人 ページ3
「芥川くんのことかい?」
「うん、そう。彼、どうも私に君を重ねてるというか…」
「そんなこともないんじゃないかい?」
「そうかなあ」
頬に手を当てて少し眉を下げる彼女の笑顔を見ると、どうも毒気を抜かれて困る。
これまでに何人の人間が彼女の笑顔に魅了されてきたのだろう、といつも思う。
「そうだ、さっき探偵社の社員に殴られたって人が来たから気をつけてね」
▼
彼女の正体は闇医者である。
それも、ポートマフィアの長である森鴎外の弟子。
元マフィアの身としては複雑なものもあるが、彼女を前にするとくだらないことだと思ってしまう。
彼女は昔から善にも悪にも属さなかった。
だからこそ森さんの診療所の後を継げたのだろう。この診療所は、森さんがいた頃と変わらぬ中立地帯である。
さらにここからが彼女が彼女たる所以だ。
彼女はその慈悲深い笑顔と人となりから、診療所に訪れた人間を無自覚に骨抜きにしたのだ。患者の怪我が治る頃には、新たに恋の病にかかっている。
国木田くんが私を「包帯無駄遣い装置」と言うのを真似て、しばらく「恋の病製造機」と呼んでいた。
前に彼女が私の代わりに捕獲された時、彼女に恋をした哀れな男達が武力蜂起したこともあった。実に罪な女だ。
「ところでA」
「ようやく本題?」
「…”万能薬”が再び確認された」
「…そう。それで?」
彼女の穏やかな鳶色の瞳は、静かに窓を伝う雫の薄氷色を反射した。太宰は彼女の目を見つめた。雨の音がいやに大きく聞こえる。
「そのおかげで、マフィアは統率のとれなくなった闇市の流通と反マフィア派に頭を抱えているよ」
「へえ。患者が増えそうだね」
憂いを含んだ声に、太宰は心臓を掴まれたような感覚を覚える。彼女は時々、普段の穏やかさから想像もできないような冷たい表情をする。
太宰は、目をそらさずに手を取る。華奢で白いが、医者らしく傷の多いしなやかな手だ。不思議そうに、自分と同じ鳶色の瞳がこちらを覗き込んでくる。
「A、私は君が心配だよ」
「そっか、心配してくれてありがとう」
「君はいつも靡かないな〜」
「そういう時に野蛮な輩が多くなるのは事実だけど、心配には及ばないよ」
「うーん心配だなあ。よし、探偵社から見張りをプレゼントよう!」
「…話を聞いて」
もうすぐ来るはずだと太宰は言った。来客を告げるベルの音に、Aは不思議そうに目を瞬かせた。
「ご、ごめんくださーい…」
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白瀬(プロフ) - 皐月さん» ありがとうございます!不定期更新ですが、どうぞよろしくお願いします…! (2019年7月25日 23時) (レス) id: 00ae9e57de (このIDを非表示/違反報告)
皐月(プロフ) - はじめまして!続きを楽しみしています! (2019年7月25日 22時) (レス) id: 6d688681c6 (このIDを非表示/違反報告)
白瀬(プロフ) - まなむさん» 愛の告白ありがとうございます!その言葉でがんばれます。。 (2019年7月22日 23時) (レス) id: 00ae9e57de (このIDを非表示/違反報告)
まなむ(プロフ) - 初めまして!!あの!好きです!!楽しみにしてます^^ (2019年7月22日 22時) (レス) id: d6b2dcb6a1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白瀬 | 作成日時:2019年7月13日 23時