吉野順平ガチ勢が原作をぶっ壊す話2

綺麗無花丹八棘我亜琉 ページ47

順平side


平日の昼間でやけに人の少ない水族館の中をゆっくりと見て回る

パンフレットを見ながら歩き出す中、ふと視界の端に写った1匹のクラゲに目を引かれた

紫色の細い毒針と、絹糸のように細くて長い透明感のある触手をなびかせて水中を泳ぐ

猛毒をその身に宿すクラゲは

ただ1匹だけ広いケースの中に泳いでいた


『これ、気になった？』

｢うわっ？！A…急に後ろから声かけられるたからびっくりしたよ…｣

『ごめんごめん、でもさ、綺麗だよね』

｢……うん、毒々しいのに…それが綺麗というか…｣


綺麗な花には棘がある

そんな言葉があるくらいだ、美しさというのは時に毒になりうるのかもしれない

人を魅了し、おびき寄せ、そして喰らい尽くす

美しさというのは人の理性を無くすに等しい素材のひとつなのだろう


もしかしたら、できるのだろうか


僕の毒で、澱月で、そういう美しさを持つ毒を作ることが

ふと横を見遣れば、Aは海月を見ていて

その横顔もまたとても綺麗だと、そう思った

儚くて、美しくて、けれど凛とした強さがあって、きっと彼には人を寄せ付けるだけの

魅力がある、そして同時に棘があるのだろう


『そういえばこれ、初デートだね』

｢え……っ…｣

『ふふ、気づいてなかった？』


悪戯げに笑みを浮かべて、彼は横髪を耳にかける、その仕草一つ一つもまた

美しいのが彼という人だ

そして僕は今、そんな彼の隣にいることを許されている

意識し始めた感情は止まることを知らず、鼓動は高鳴る

ふと、彼の手がそっと僕の頬に触れた

思わずAの方を見れば、彼は今まで見たどんな笑みとも違う

柔らかくて、儚くて、優しい笑みを浮かべていた


『順平、ボク今すっごく幸せだよ』

｢……僕も、Aと一緒にいられるのは…嬉しいな｣

『あんま可愛いこと言わないで、キスしたくなる』


冗談なのか、本気なのか

だがその時の僕は、ちょっとだけ自分の欲に素直になりたかった


｢しても…いいよ｣


静かな水族館の中、彼の驚いたような顔が目に映る

その頬を淡い薔薇色に染めて、彼は心底幸せそうに微笑んで

そして少し照れくさそうに眉を下げた


水の揺れに合わせて淡い青色の光がゆらゆらと僕らを照らす

水の中を優雅に泳ぐ海月の美しさにあてられたのか

それとも僕が彼の美しさに魅了されたのか


ただはっきりとしているのは

彼の琥珀のようなその金の瞳が閉じられて、暖かな感触が唇を包んだ事だけだ

あとがきと裏話→←強引な彼

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