8音 ページ9
……
『…ん………』
人の温もりを感じ、意識が浮上する。
「わり、起こした?」
『!?』
飛び起きそうになる。
悠仁がベッドの側に座って、私の手を握っていた。
『な、んで…ここに……』
寝起きだからか、声が掠れる。
「釘崎から風邪だって聞いてさ、授業終わった後すっ飛んできた」
そう言いながら指でかく頬は、ほんのり赤い。
『あり、がと』
「おう。早く元気になれよ」
そう言う間も、ずっと手を繋がれている。
『あの、手…』
「ごめ、嫌だった?」
『……いや…何か、安心、する』
「……そっか」
悠仁は、少し嬉しそうな顔ではにかんだ。
「寝てろ」
悠仁の手が、視界を塞ぐ。
私はまた、眠りの海に吸い込まれていった。
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〈虎杖side〉
夢みたいだと、思った。
高専で、Aと会えるなんて。
幼い頃、子供ながらに真っ直ぐなAが好きだった。
いつも、俺の憧れだった。
転校するって聞いたときは、凄え悲しかったし、寂しかった。
でも、俺は笑った。
泣いて見送ったら、横っ面張られるもん。
だから、笑顔で言った。
“いつか、また会おうな!絶対だ”
絶対、なんて存在しない。
今になったから分かる。
生半可な覚悟で“絶対”なんて言えば、それは呪いになる。
「A、生きててくれて、ありがとな」
そっと呟いた俺の声は、誰にも拾われることなく静寂に消えた。
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作者名:しぐれ | 作成日時:2022年1月24日 21時