-Episode71- ページ23
Satoru Gojo side
ずっと暗い闇の中を浮いている浮遊感を感じていたが急にそれは消えた。
消えたことの驚きに目を開けると俺は何故か家の中庭にいる。
…いや、此処は五条家に似ているが五条家とは違う。
屋敷を見ていると鹿威しの音が近くで聞こえた。
視線をそっちに向けるといつの間にか池の縁にAがしゃがんで鯉に餌をあげていた。
声を掛けようと口を開くのと同時に別の声が名前を呼ぶ。
それに嬉しそうに振り返るAの顔は見たことがないぐらいに嬉しそう。
立っている俺が見えていないのか横を通って行く灰色の着物を着ている男。
すぐに誰か分かった。
コイツが呪いをかけた先祖様か。
『また此処にいたのか』
「餌担当は私なので」
横にしゃがんで餌をやるAの顔を見つめる男の横顔は俺にそっくりだ。
「御前試合、いよいよですね」
『あァ』
これは遺伝子の記憶だ。
『もし、勝ったら…』
「分かってますよ。一緒に桜、見に行く」
嬉しそうに頷く先祖様。
Aに対する、愛おしい気持ちが横顔からでも読み取れる。
だがそれは一方通行のようにも思えた。
瞬きをすると先祖様の姿は消え、Aだけが池の前にしゃがんでいる。
どこかその背中から悲しさが見える気がした。
Aは立ち上がると俺の横を通り縁側に座る。
おぼんに乗った艶やかなタレを纏ったみたらし団子を食べ始めた。
見えていないならと俺は隣に座る。
Aの横顔を見ていると黒い瞳から溢れんばかりの涙が零れ落ちていく。
嗚咽交じりにもみたらし団子を食べていたが苦しかったのか食べるのを辞めた。
「桜、見に行くって…」
小さく呟かれた言葉に俺まで胸が痛くなった。
手を伸ばすがすり抜けてしまう。
「幸せになれって貴方がいてこその幸せなのにどうして」
きっとここからどう生きたらいいか分からなくなってしまったのか。
『Aを頼む』
はっきりと耳元で聞こえた声に振り向くが誰もいない。
ただ庭で咲き乱れている桜の花弁が落ちているだけだった。
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作者名:アルマジロ | 作成日時:2023年9月2日 9時