-Episode32- ページ33
「…ッ」
鈍痛に目を開けると闇が広がっていた。
そして、雨が顔を濡らす。
体を起こそうにも腕も足も痺れて動かせそうにない。
息を吐くと咳が出てしまう。
特級と戦って、二人を探してたら足を滑らせて崖から転落したのか。
袂から携帯を出すが充電が切れているのか落下した衝撃で壊れたのか画面は黒いまま。
痛む体に鞭を打って雨の当たらない所に行こうと這いつくばっていたがまた意識が飛ぶ。
遠くから誰かが焦って何かを叫ぶ声が聞こえる。
それは段々と近くで聞こえるようになりはっきりと何を言っているのか分かるようになった。
五条「ぃ……おい！しっかりしろ！」
重たい瞼を必死に開けると六眼と目が合う。
「綺麗」
雨の音に打ち消されてしまいそうなか細い声が出た。
六眼が大きく見開かれる。
「呪詛師は…」
五条「硝子が別の補助監督に連絡してくれて連れてって貰った。傑は呪力切れ」
「そうですか」
五条「んで残穢を追ってたらまさか倒れてるしよ」
「すみません」
五条「とりあえず移動するぞ」
手を差し出してくれるのでその手を握り立ち上がろうとするが全身に力も入らなければ足が特に痛んだ。
立てない私に気づいたのか五条悟は私に背を向けてしゃがむ。
「すみません」
その背中に乗ると目線が一気に高くなる。
山を下りるのだろうかと思っていると近くに小さな穴に連れて来られた。
私を壁にもたれさせその隣に座る。
五条「俺も限界」
深い息を吐き出しながら言う。
「雨が止んだら下りましょう」
濡れた髪を絞りながら外の様子を見ると光った。
数秒後、雷が鳴る。
五条「宿儺の指は」
「此処にあります」
左腕を上げる。
五条「そう」
ぼんやりと一点を見続けていると肩に重みを感じた。
目線だけを横に向けると白い髪が近くにある。
名前を呼んでもいいのだろうか。
五条「悟」
「え」
五条「俺だけ名前で呼んでねェ」
「でも…」
五条「アイツらは名前なのに」
「分かりました」
五条「じゃあ、今呼んで」
「い、今ですか？」
五条「名前呼ぶぐらい簡単でしょ」
「悟」
五月蠅いはずの雨の音が名前を呼んだ時だけは静かになった気がした。
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作者名：アルマジロ
| 作成日時：2023年8月8日 22時
