31話 ページ32
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桜を見ていると、思い出す事がある。
前世、ひとらんさんが“桜”を苦労して手に入れて庭の花壇の近くに植えていた事を。皆とお花見をしたことを。
ほぼ散った桜の花弁を眺め、思い出す。
いつか、また皆と一緒に桜を見たい。
それが実現するのも、遠くないのかもしれない。
“全員、仲間のことは忘れていない”
なんの根拠もない言葉のはずなのに、グルッぺンさんにそう言われると、そんな気がしてくるのだから不思議だ。
そういえば、春といえばシャオロンとも春に出会ったんだっけ。
暖かくなってきた頃に、アイツに出会ったんだ。
私も彼も少し荒れてて、でも直ぐに仲良くなった。
……懐かしいなぁ。
桜の木から目を逸らして、踵を返す。
今日はもう帰ろう。
散った薄桃色の花弁の絨毯の上で、私は1歩1歩と足を進めた。
最近、コネシマやグルッペン、トントンまでも出すあの名前。
A。
誰かは知らないけど、共通の知人だということは分かる。
なんでか、知っているような気がする名前の響き。
懐かしい気がするのはなんでやろ。
関わってみたい。
そんな欲が湧いてくる。
いや、でも、知らん奴が急に行ったら怖いやろ。
いくら共通の知り合いがいるとはいえ、先輩が急に関わりに行ったら怖いやん？
んー、どうすればええんやろ。
俺が名前しか知らん相手に話してみたいってここまで思うなんて、自分のことながら不思議やな。
まあ、機会が無い限りは行けんやろ。
コネシマ達の知り合いだし、生徒会に推薦されてるし、多分すぐ関わる機会はある。多分。
その時に、話して見てみたいな、なんて。
桜と言えば、お花見を思い浮かべる人が多いと思う。
俺もその1人で、皆で桜を見ることが何故か昔から好きだった。
花を育てるのも、動物の世話をするのも好き。
けど、お花見はそれ以上に好き。
もう花の散った桜の木を、ただ眺めている奴を見つけた。
少し寂しそうな顔で桜を見つめるその子を、何故だか見たことがあるような気がした。
桜、好きなの？
何回か桜の木の傍で見かけていたから、そう声をかけてみたかった。
けど、何か思い出に浸ってるような、心ここに在らずという表情をした彼女に話しかけるのは気が引けて、声を出そうとした口を閉ざす。
次、見かけたら。
その時は話しかけてみようかな。
なんて思いながら、俺はその場を離れた。
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作者名：叶海 | 作成日時：2020年10月7日 20時
