【d!】忘失 (ページ19)

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18話ページ19

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｢……あの、｣

隣の席にいる、不思議な雰囲気の女。

机に突っ伏して寝ている彼女は、怖いもの知らずなんだと思う。

10数分前まで行われていたのは世界史の授業。
その後は担任からの諸連絡が伝えられ、現在は放課後。

世界史の先生は怒らせると面倒臭いタイプだというのは、この学校のほとんど全ての人間が知っていること。

それやのに、よう寝れんなこの人は。

『……ん』

体を起こし、欠伸を噛み殺しながら彼女はこちらを向く。

いつ見ても、ムカつくくらいに顔が良い。

クソ先輩みたいやな。

｢……あんたは気にしてなさそうっすけど、ゲーセンの件、すみません。
顔色良くなかったですし……。

あんな屑な先輩ですけど、根は良い人なんで許したってください｣

そう言葉を紡ぐと、彼女は控えめに笑顔を作り、｢気にしてないから｣と返してくれた。

『君は律儀だね。……そんな小さなことで一々謝ってくるような奴には見えないけど』

その通りだった。

あんなこと、よくある事やし、謝ることなんて絶対しない。

自分がナンパした訳でもないのに、なんで俺が謝らなあかんの、とか考える人間だ。

何なら、一晩寝たら忘れるタイプ。

……でも、今回は何故かそうじゃなかった。

それに明確な理由なんて無い。

｢……気分、ですかね。
否、話す口実が作りたかったからーとか言っといた方が女って喜ぶんでしたっけ｣

チラリと彼女の顔を伺う。

この人は、そこらにいる女とは何かが違う。

その何かは俺にはよく分からへんし、言葉で言い表せるものなのかすらも分からん。

でも、一つだけ分かること。

俺の言葉を聞いて、口角を上げた彼女に、確かに今、好奇心を抱いたこと。

今初めて…ではなく、最初見た時から、なのかもしれないが。

『ふふっ、嫌な奴だね君。
…………あ、あのメガネさんに伝えておいてよ。

私を、玲奈を、そこらの男好きと同じにしてんじゃねーよって。
あの声で話しかけられたら鳥肌立つから止めてくれ、とも。

ま、これ以降話すかどうかは分からないけど』

彼女はそう言って、直ぐにバックを持ち教室から出て行ってしまった。

笑顔なのに、目が笑っていなかった。

俺はしばらく、廊下の方をただ呆然と眺めていた。

大先生に、｢声が気持ち悪い｣って言われていたと伝えとかんとな。