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「…寒い…」
羽織をお風呂場まで持ってきておいてよかった。私は用意してあった薄紫色の浴衣の上に羽織を着て、外に面している廊下に出る。
「…あれ」
お家の塀の上に、風柱様が座っていた。
(…どうしよう)
私は考えを巡らせる。
もし良いならば、今日の行動を打ち消せるくらいのしっかりとした会話をするために、風柱様に話しかけたい。
けれどいいのだろうか。あれだけ不快な気持ちにさせておいて私ごときが___
「おい」
「!」
耳に響いた声に、私はハッと顔を上げた。
「見てるならこっち来いィ」
「は、はい!」
不機嫌そうな表情で言う風柱様に返事をして、私は急いで近くにあった草履を履いて庭に出る。思い切り飛び上がって、風柱様の隣に立った。
「座れェ」
「はい」
言われた通りに座る。はるか遠くの空には、四か月前のように綺麗な満月が出ていて、風柱様はそれを見上げて私に尋ねた。
「鬼の遺族、あれから回ってないかァ」
「…一度だけ、皆さんのご自宅を伺いました」
私は静かに答える。
「もう訪ねることはありませんと伝えるために…、
皆さん様々な反応をされていましたが、ほとんどの方はすぐに納得してくださいました。やはり私が皆さんのご自宅を伺うことは不必要な場合が多かったみたいです」
風柱様は月に視線を向けたまま頷いた。
「これからは“心配だからまた来てほしい”と言って下さった方のご自宅のみ伺わせて頂こうと思います」
「ん」
風柱様の短い言葉のあと、しばらく沈黙が続いた。私が風柱様にならって月を見上げていると、ふわりと風が吹いて、風柱様が口を開く。
「最近の任務は順調かァ」
「はい」
私は大きく頷いた。
「以前は合同任務の指令が来ることさえも少なかったのですか、今は下級隊士との合同任務に当てられることも多くなりました」
「そうかィ」
「使えなくなっていた水の呼吸もまた使えるようになりました」
「よかったなァ」
少し微笑んでそう言う風柱様。
四か月振りに見た優しい笑顔___。
「風柱様、ありがとうございました」
私が頭を下げると、風柱様は「何がだァ」と私の顔を見た。
「風柱様のおかげで、私は本来の自分を取り戻せたような気がします。…風柱様、ありがとうございます」
笑って、言う。
「ん。良かったなァ」
頭に乗る大きな手。
私の目の前には、月明かりに照らされた風柱様のとても優しい笑みがあった。
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ゆうきりさ(プロフ) - Mashiro Lioさん» Mashiro Lioさん、ご指摘・コメントありがとうございます!きっと作者だけでは気づかなかったので本当にありがとうございました!最終決戦、私自身も書くのが楽しみで仕方ないです!待っていてくださいね! (2020年9月25日 22時) (レス) id: a3d7f766b2 (このIDを非表示/違反報告)
Mashiro Lio(プロフ) - 指摘失礼いたします。88話にて、雫波紋突きは伍ノ型ではなく漆ノ型ではないでしょうか。柱稽古なので、ああそろそろ最終決戦だ……!とドキドキしながら読んでいます。作者様が最終決戦をどのように描くかが、とても楽しみです……。ご無理のないよう頑張ってください! (2020年9月24日 22時) (レス) id: 97626e8ffb (このIDを非表示/違反報告)
ゆうきりさ(プロフ) - 鮭大根さん» 鮭大根さん、コメントありがとうございます!面白いと思って頂けてすごくうれしいです!更新待っていてください!!コメントもらった作者頑張ります!←メッチャうれしいんです笑!! (2020年9月13日 16時) (レス) id: a3d7f766b2 (このIDを非表示/違反報告)
鮭大根(プロフ) - ウェーイ( ・∇・)面白いです!!これからも頑張って下さい!!応援してます!!続き楽しみ〜(´-ω-`)ムフフ (2020年9月13日 9時) (レス) id: ef1af2de4e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆうきりさ x他1人 | 作成日時:2020年9月2日 18時