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(F7 side)
バッティングマシンでの打ち込みを、雄也から見えない位置から見ていると、トントンと俺の肩が叩かれる。振り向くと、大田泰示さんがいた。関東に家族のいる泰示さんは、札幌では寮に住んでいる。移動休日に練習場にいても、不思議な事ではない。
F33:雄也、移動中と表情が違う。それを見ている遥輝も。聞いちゃアレだけど、奥さん絡み?
F7:はい。ここじゃアレなんで…。
F33:俺の部屋でいい?
俺は泰示さんに連れられて、寮の部屋に移動した。結城先生に聞かされた事を、ざっくり説明すると。
F33:奇跡が起きれば視力が回復している。それ以外なら、別の病院で再び検査…か。
F7:月末までに決めてと言われたのに、札幌にいる間に答えを出そうとしているんです。Aちゃんの想いが残っている自宅よりも、ここで気分転換してから帰した方がいいと思って、病院から直接連れてきました。
俺はプロになる前から雄也を知っていて、膝の手術の時にもあんな辛そうな表情を見た事がなくて。
F33:打ち込みしながら考えているんだろうな。雄也と奥さんにとって、究極の選択だから。
F7:究極の選択、ですか?
F33:筋力低下で歩けない事は、視力が回復しても日常生活ができるまでに半年。子どもを育むためにはもっと回復する必要があるから、1年位かかるだろう。雄也、子ども好きだろ?遥輝たちの子どもを見てたら、自分もって考えるだろう。だけど、奥さんの体調を考えると手が出せない。
F7:あっ…。
F33:膝の手術で最初は歩く事もできなくて。患部に負荷をかけてもよくなったのも3ヶ月後くらい。歩きたいのに歩けない、その辛さもわかるから、余計に考えていると思う。
それに別の病院で検査をする事は、アメリカにいる期間が伸びる。行く時も相当悩んだんだろ?
F7:雄也がケガで鎌にいた時、俺と結衣が別居していた。Aちゃんが1人なのは不安だと言って、結衣はAちゃんの家で生活をしていて、それは俺も納得していました。
だけどAちゃんは、俺たちが別れて暮らす事は絶対にダメだと。自分が見えるようになれば結衣を解放できる…と考えたらしくて。
Aちゃんは雄也の元を離れてアメリカへ行く事を選んだ。そう追い詰めてしまったのは、俺たちだ。
F33:遥輝も辛いな。今は雄也の選択を見守るしかない。
雄也が、俺を含めた既婚者の誰かに相談ができればいいけれど。1人で悩みを抱えてしまうんだろうなぁ。
F7:そうですね…。
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作者名:梨瑠(Riru) | 作成日時:2018年9月16日 4時