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ーーーあの時、本当はあの橋から飛び降りようと考えていた。思い出の詰まったあの川で、死んだら杏寿郎に逢えるかもしれないと脳裏をよぎったからだ。
橋の手すりに手をついた時、不意に何か温かいものに抱き止められた気がしたんだ。自らの命を絶とうとした私は愚かだった。あのまま飛び降りて死んでいたら、きっと杏寿郎は私を迎えに来てくれることすらない。
そしてあの後すぐに竈門くんに肩を掴まれ、彼を連れて杏寿郎と一緒に焼き芋を食べた川辺で話をした。
「………ごめんね、ずっと来れなくて」
杏寿郎の葬儀が終わり、もうどのぐらい経っただろう。大きな仏壇の前で手を合わせる。もう彼は、お母様に会っているのだろうか。
最期に見た貴方の死に顔は、辛そうでなくどこか幸せそうに笑っていた。だから、離れたくなかった。離れてしまえば、もう貴方の顔にも、手にも、触れられなくなってしまう。そう思ったから。
「A」
「ーーー槙寿郎さん」
私の背中に呼びかけた槙寿郎さん。
振り返り、お葬式の際、迷惑をかけたことを謝った。火葬される前の杏寿郎の棺から離れられず取り乱した私は、彼に気絶させられた。
目が覚めた時にはすでに火葬が終わった後だった。
それからずっと塞ぎ込み、ここに足を運ぶことすらやめていた。
「……杏寿郎のことを想って、泣いてくれてありがとう」
「…………」
「君はまだ若い。幸せになる道を、どうか間違えるな。きっと、杏寿郎もそれを望んでいるはずだ」
差し出された一枚の写真。
杏寿郎が最期にこのまちに帰ってきた時に一緒に撮ったものだ。写真なんて高価なもの撮らなくていい、そう言った。けど、杏寿郎はそんな私を引っ張って写真館に連れて行った。
出来上がったそれが先日届いていたらしい。
それを受け取って、胸に抱き締める。あぁ、最初で最後になってしまったこの写真に映る私たちはなんて幸せそうなんだろう。
「ーーー槙寿郎さん、今日は杏寿郎に挨拶をしにきたのと、もう一つ貴方にお願いがあって参りました。………私の願い、聞いてもらえないでしょうか?それが私がこれから生きていく幸せだから」
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るる - 読んでる途中に目から水が、、、、、、、、 とってもいい作品でした!!!!!! (7月25日 14時) (レス) @page50 id: daa8a87cdb (このIDを非表示/違反報告)
ユキ(プロフ) - 初めまして!涙なしに観れませんでした… (2021年9月26日 18時) (レス) @page50 id: fb083d1d07 (このIDを非表示/違反報告)
名無し12758号(プロフ) - 素敵なお話をありがとうございます…!一話目から引き込まれて全て読みました、鼻水まで出してみっともない泣き顔で読んでしまいました…笑笑映画でもボロ泣きしましたがこれでも号泣してしまいました、素敵な話が読めて良かったです。本当にありがとうございます! (2020年11月23日 19時) (レス) id: 3be706ff9b (このIDを非表示/違反報告)
ちえ - 初めまして!このお話を深夜に見かけ一気に読みました。映画でも泣きましたが、このお話も号泣でした。素敵なお話ありがとうございます。何度でも読んでしまいそうです。 (2020年11月23日 2時) (レス) id: b7bf575f91 (このIDを非表示/違反報告)
raaaaaaam(プロフ) - 初めまして!私も一気に読み、深夜なのに号泣笑 隣に寝てる子供が起きるぐらい泣いてしまいました笑 煉獄さん、、最高!素敵な夢を見させて下さりありがとうございます(T_T) (2020年11月20日 4時) (レス) id: c6906907ca (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:美桜 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/ririsa10713/
作成日時:2020年10月26日 20時