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懐かしい夢を見た。
あれは初めて父上の口から、「Aは許嫁」と聞かされた日だった。
彼女の父親は生前、父とは古い仲だった。だから俺とAを幼い頃から何度も会わせていたことに、何か裏があるのだとは薄々気づいていたんだ。
パチッと目を開けば、隣にはもう千寿郎はいなかった。そのかわり、水屋の方から朝餉の匂いが漂ってくる。
朝餉の前に竹刀を手に持ち、千寿郎の声で朝餉をいただく。千寿郎は俺を見て「楽しそうですね」と笑った。そうか、……うむ。俺は楽しそうなのか。
「千寿郎は、初めてAに会った時のことを覚えているか?」
「俺はまだ生まれたばかりでしたので覚えてませんよ」
「そうであったな!」
朝餉には、父上は現れなかった。
先日、Aが夕餉を一緒にした時は、彼女に連れられ渋々と来ていた。Aが自然に会話を父上に振っていて会話があった。彼女にはそういう力があるのだろう。
行ってくる、と千寿郎に伝えると屋敷を出て待ち合わせ場所まで向かった。屋敷まで迎えに行くと伝えたが「待ち合わせしましょう」と言われてしまった。またそれも良いものだと思っていた。
待ち合わせ場所に見えたAは誰か別の男と話しているようだった。その男に笑顔を見せる姿を、立ち止まりじっと見つめる。
鬼殺隊である俺よりも、他の男の元に嫁いだ方が彼女の幸せなのかもしれない。そう時折思ってしまうが、そんなことよりも彼女を他の男に渡したくないという独占欲の方が勝っていた。
手を取られ、どこか焦っている彼女に「待たせただろうか?」と二人の会話に割って入った。杏寿郎、と笑みを浮かべて、その男の手を振り払うように俺の元にやってくる彼女。
少し手荒にAを引き寄せては、男に「彼女に何か用だろうか?」と目を細めた。
「……あ……いや……」
走るように逃げていく男を見送ったあと、胸に閉じ込めていたAを解放すると、顔を赤くさせたAが「いきなり驚きました」と見上げてくる。
「………愛いっ」
「杏寿郎?」
「済まない。あまりに愛おしくて、つい」
行こうか、と差し伸べた傷だらけの手のひらに綺麗な手が重ねられた。
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2回目乗車してきましたが、安定に泣きますね。
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るる - 読んでる途中に目から水が、、、、、、、、 とってもいい作品でした!!!!!! (7月25日 14時) (レス) @page50 id: daa8a87cdb (このIDを非表示/違反報告)
ユキ(プロフ) - 初めまして!涙なしに観れませんでした… (2021年9月26日 18時) (レス) @page50 id: fb083d1d07 (このIDを非表示/違反報告)
名無し12758号(プロフ) - 素敵なお話をありがとうございます…!一話目から引き込まれて全て読みました、鼻水まで出してみっともない泣き顔で読んでしまいました…笑笑映画でもボロ泣きしましたがこれでも号泣してしまいました、素敵な話が読めて良かったです。本当にありがとうございます! (2020年11月23日 19時) (レス) id: 3be706ff9b (このIDを非表示/違反報告)
ちえ - 初めまして!このお話を深夜に見かけ一気に読みました。映画でも泣きましたが、このお話も号泣でした。素敵なお話ありがとうございます。何度でも読んでしまいそうです。 (2020年11月23日 2時) (レス) id: b7bf575f91 (このIDを非表示/違反報告)
raaaaaaam(プロフ) - 初めまして!私も一気に読み、深夜なのに号泣笑 隣に寝てる子供が起きるぐらい泣いてしまいました笑 煉獄さん、、最高!素敵な夢を見させて下さりありがとうございます(T_T) (2020年11月20日 4時) (レス) id: c6906907ca (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:美桜 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/ririsa10713/
作成日時:2020年10月26日 20時