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私のため、私のため、私のため、と心の中で何度か呟いてみる。
本当にそんなような気がしてきた。
教室に戻ろうとしていた足を反対に向けると、私はわざとらしく咳払いをしながら奥へ進んだ。
「あのお、もしもし? お取り込み中のところ失礼しますが……」
人当たりの良い、そして胡散臭さを含んだ笑顔で喧嘩している集団に近づく。
姿を見てビックリ。どうやら3対1だったらしく、壁に押さえつけられて殴られていたであろう人は厳しい表情のままこちらに視線を向けた。
……あ、私、この人知ってる。
「なんだよてめぇ!!」
「しー、しー!! 静かにしてください!」
興奮状態の御三方は、どうやら先輩のよう。
私は必死に宥めると、矛先が自身に向かないうちに背後を指さした。
「あそこにいるの、誰だかわかりますよね?」と一言告げれば、それだけで先輩方の顔に動揺が走った。
「どう見てもリンチですし……見つからないうちに怒りを抑えた方がお互いのためだと思いますよ?」
へらへらと笑いながら忠告する。
私の言っていることは事実だ。殴られた彼が納得するかは分からないけど、ここで見つかって全員停学なんてことになったら最悪の状況だ。
彼らもそれを理解しているのか、しばらく渋い顔をした後に悔しそうに去っていった。
そして、体育館裏には私と推定被害者が残されたわけなのだが……
「保健室行きなよ」
私はそれだけ言い残すと、今度こそ昇降口に向かって歩き出した。
私は面倒事に巻き込まれたくなくてこんなことをしたんだ。心配して駆け寄って「大丈夫っ!?」とかそんな馬鹿馬鹿しいことしてたまるか。
それにもうすぐ授業も始まる。
ただでさえイケメンから呼び出されて目立ってんだから、遅刻なんてできるわけが無い。
「待ってくれ!!」
「いや、待たないから」
それなのに、こいつはなぜ空気を読まないんだ!!
かけられるだろうなと分かっていたその一言が本当に降ってきて、思わず反射的に返してしまった。
振り返りキッと睨みつける。
分かって、お願い。私は君を助けたんじゃなく、自分のためにこんなことをしたんだよ。
君からお礼を言われる筋合いは無いんだよ。分かってくれよ。
「その、助けてくれてありがとう、お礼が……したいんだ」
「いやいい。いらないから」
私の心境もつゆ知らず、私の予想から1ミリも外れない言葉が返ってくる。
だから面倒なんだ。
______この男、守沢千秋は。
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りつ@鉛筆 #アダマリLOVE(プロフ) - 急に失礼します癖に刺さりました。 (2022年8月29日 20時) (レス) @page10 id: 6f6f2e1e89 (このIDを非表示/違反報告)
雪月詠 - 急にすみません大好きです() (2022年7月8日 19時) (レス) @page10 id: ec1ca7135a (このIDを非表示/違反報告)
ゆら(プロフ) - 急にすいません好きです() (2022年7月4日 18時) (レス) @page10 id: 6e1901c539 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:とわね | 作成日時:2022年6月27日 1時