14歩、 ページ19
Aside
切ない思いを引き出すようなイントロ。
けれどお店に入り、そのBGMとは真逆の明るく突き抜けるような店員さんの声を聞けばそこはいつもの場所だった。
付き合ってから??いや、きっとその前から。
私が太一に思いを寄せていたときから、ここによく2人で来ていた。
BGMには似つかわしくない少し高く間延びした声。
自分では気に入っていないようだったけど、私はその声も好きだった。
あぁ
違うな。
今も好きだ。
あの人の声だけじゃない、性格も容姿も纏う雰囲気も、1つ1つの仕草だって。
1度も忘れたことなど無い。
川『ねぇ、これいいんじゃない?』
『これは?』『これもいいんじゃない?』『やっぱこれは?』
まるで着せ替え人形で遊んでいるかの様に。
185をも超えるほどの高身長男が、色んな服を持ちながらサッと駆け寄ってきては屈んで私に服を合わせてくる。
周りから見れば大層シュールで可笑しな絵面だろう。
私もそのギャップが可笑しくて笑いが堪えられないときがあったから。
でも、そんなところも好きなのだ。
クールで飄々としてるはずなのに、どこか気が抜けてて逃げ癖があってちょっぴりヘタレ。それでも、バレーを前にすると誰よりもあつい男に早変わりする。
表情筋が動かないから気づきにくいだけなのだ。
そして何より私に対しては真剣でこんなふうに優しいところが。
とてつもなく好き。
なんて、過去に思いを馳せているとふと自分のところにそっと影が落ちる。
びっくりして慌てて上を見ると、いつもの女店員さんがこちらを微笑ましげに見ていた。
A『うわっォア!?』
店員「うあっ!?ふふ、すみません急に。」ニコッ
少し語尾が伸びてるような喋り方。
いつもの人だ。
A『いっいえいえいえ!!おぉお久しぶりですね!』
店員「そうですね!お久しぶりの来店、ありがとうございます。」
そう言ってまた彼女は微笑んだ。
親しみやすい笑みだな、とつくづく思う。
年齢を聞くことは恐らくこれからも無いだろうが、見た目的には私よりも十以上は離れている。恐らく30代前だろう。
にも関わらず、この人はいつも未熟で舌っ足らずな私の話を親身に聞いてくれる。
そんなこんなでまた喋り過ぎたかな、と思いながら店を出た。
時間的にはお昼ご飯にするにはまだ早いような。
次はあの人の記憶と共に何処にいこうか。
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作者名:水菜 | 作成日時:2022年12月11日 16時