美しき恋情３ 【赤司征十郎】

歪＊85 ページ5

翌日。久しぶりに痛みの感じない頭に多少の違和感を感じながらも、
気分を高まらせて、あたしは買い物をするために外へと出ていた。


「今日のお夕飯は……鯖にしようかな」

鮮魚コーナーで並ぶ魚を眺めながら、照明を受けて光るその魚を手に取る。
塩焼きか……鯖のサラダか……うーん。

夏だから、サラダでサッパリといこうかな。


「あとは人参と……トマト、パセリ、玉ねぎ……」


あ。小麦粉も買って行かないと。
そんな風に思いながら店内を移動していれば、後ろから声をかけられた。


「アンタ、ひとりごと多くね」

「え……す、すみませっ」


圧の感じる声。
びくりとして振り返れば、大きな背に鋭い目つき。
赤司さんとはまた違う、少し黒髪の混じる赤い髪を持つ、その人は、
「別に良いけど。鯖のカルパッチョサラダでも作るのか」とあたしの持つ籠を覗く。


「あ、の……はいっ、お夕飯に……」


見覚えのある、その人は。


「へー。アンタみたいな人でも、料理とかすんだな」

「え……」


どういう意味だろう。
どう考えても失礼な言葉にしか思えない言葉を言ったその人は、
あたしの隣に立ってマグロを眺める。

……火神大我。
"黒子のバスケ"の主要人物、黒子テツヤの相棒だ。


「ああ。なんかアンタの来てる服ブランドだから、そんな人でも自炊すんだなって思っただけ。
　気ぃ悪くしたなら謝るわ」

「いえ、大丈夫です……」



「お、これ美味そう」と言った彼は、マグロのパックを自身の持つ籠に放り、
そうしてすぐ鯖のパックを覗いて、「こっちの鯖のがいいぞ」とひとつをあたしに渡す。


「ありがとうございます」

「……なんかアンタ、知り合いの匂いがする」

「……へっ！？」


くんくん、とあたしの匂いを嗅ぐ彼の嗅覚は、一体どうなっているのだろう。
匂いを嗅ぎ続ける火神さんに戸惑っていると、
バキッ！と何かの音がして、気が付いたら後頭部を押さえた火神さんがいた。


その後ろには、大根を持った青峰さんが眉を顰めて立っている。

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