木槿のふたり (ページ15)

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まさかの偶然ページ15

住所をまだ覚えていない私は、タクシーの運転手さんに「ここで！」と住所をメモしてある画面を見せた。

「すみません、私の方が後で良かったのに」
「それじゃ危ないから」
「ありがとうございます」

そんなやりとりをして、少しの静寂。
街が動きだす前のこの時間の東京は、異世界な感じがするから結構好き。

「あれ、ほんとにこっちであってる？」

しばらくして、窓の外の景色をみながら不思議そうに聞いてくる松本さん。

「合ってると思いますけど…」
まだ土地勘がない私は、曖昧な返事しか出来なかった。

しばらくしてタクシーは私の住むマンションの前に止まった。

「あ、ここです。今日は送っていただいてありがとうございました…」
「あ、ちょっと待って！」

私がタクシーを降りようとすると、「あの、地下の駐車場の方入ってもらってもいいですか？」とタクシーの運転手さんに言う松本さん。

なんのこっちゃ、と思いながらその光景を眺める。

「あの…？」
改めて地下の入り口に止まったところで、タクシーから降りる。

「あ、ごめん。ここ、俺も住んでて」
「えーーーっ！」
「いや、ほんとビックリだよ」

そういうと、いつの間にかお会計を払ってくれていたのかタクシーは去っていた。

「あ、お金…」
「大丈夫、このタクシー事務所の契約してるやつだから」
「そうなんですね…ありがとうございます」

松本さんクラスが住んでいるこのマンションに、自分がいていいのだろうか…
てか部屋貸してくれたウィルの叔父さん、ほんとどれだけ凄い人なの…!?

より一層自分の場違い感を感じながら、松本さんとエレベーターに乗った。