木槿のふたり (ページ13)

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突然の破水ページ13

「今回は積極的に新しい技術を使っていきたくて、挑戦的なことをしたいんだけど、今考えてるのは…」

松本さんとの初めまして、から約１週間。
ほぼ毎日といっていいくらい打ち合わせ三昧。

正直、今まで色んなアーティストさんと仕事をしてきたけれど、毎回アーティスト本人が参加なんてことは経験がない。

バラエティの収録や雑誌の撮影など、街を見渡せば至る所で見つけるんだから、相当忙しいだろうに、いつ休んでるんだろう…？

「この衣装自体をプロジェクションマッピングで変えたくて、でもなかなか国内でいないんだよなー…」

「それならさぁ、」

一緒に会議に参加していた先輩が話し始めると同時に、プルルルルッと先輩の電話が鳴った。

「ああ、ごめん」

「いいよ、出て」

先輩が電話をとると、「ええっ！うそ、今？！」と慌てだすもんだから、周りも何事かと様子を伺う。

「………菜々が、うちの奥さんが、破水したって」

電話を切った先輩が、ソワソワわたわたしている。

「病院近いの？早く行ってあげなよ」
松本さんは、そう言うと会議室の電話から何処かへ電話し始めた。

「いやでも今抜けられないよ…」
「大丈夫、だってAもいるし」
「それもそうか……じゃあ悪いけど行くわ！」

ごめん！と走りだす先輩に、「下にタクシー呼んである！」と松本さんが叫んだ。

「先輩！！菜々をよろしくお願いします！」
後ろ姿に、私も叫ぶ。

どうか、どうか無事に生まれますように。
菜々、がんばれ…！！と、心の中で祈った。