貰った温もり ページ9
「そうか。Aは耳が聞こえないのか」
炭治郎さんは一瞬驚いた様子を見せるも、別段珍しがる様子は無かった。
それは猪…伊之助さんも同じで、胡座をかいた膝の上に頬杖をつきながら私に言う。
「お前、住んでんのが山ん中だったらすぐ死ぬぞ。今までよく生きてたな」
耳が聞こえない事を知って、私の為に被り物を取ってくれた彼は真顔でそんな事を言う。
その言葉からして、彼は山育ちなのかもしれない。それならその野蛮な格好にも合点がいくと一人納得する。
──それにしても。
先程の反応を受け、私は内心驚きが隠せないでいた。
二人とも、善逸さんと同じく変な目で私を見なかった。鬼殺隊は欠落がある人に対する偏見が無いのだろうか。
そうして佇んでいた私を不思議に思った炭治郎さんが、どうした?と首を傾げる。
『私、こんな事初めてで。耳が聞こえないと知るなり、奇異の目で見たり、疎まれるのが普通だと思っていました。現に家族もそうでしたし』
私にとっては何気ない文章のつもりだったが、それを見るなりふっと三人の表情が変わる。
何か変な事を書いてしまったかと不安になるも、それは一度の瞬きのうちに戻ってしまった。
そうして少しの沈黙の後、善逸さんは此方に微笑みかけながら言った。
「Aちゃんは今までよく頑張ってきたって、俺は思うよ」
たった一言。
でもその穏やかな優しい笑顔と相俟って、何だか少しだけ救われたような気がした。
心の奥底を陽の光でじんわりと温められるような感覚。
心地良さと、感じたことの無い温もりに対する違和感で、私は無意識のうちに胸へと手を寄せる。
生まれた時点で"価値のない子"だと位置づけられていたから、せめてこれ以上は周囲を落胆させないようにと毎日取り繕ってきた。
穀潰しだと白い目で見られないように家の仕事はしたし、家族の中では陰になるよう努力もしていた。
昨夜──鬼に襲われ、自身の目前に死が迫っていたあの時。
やけに落ち着いて、これから与えられるであろう「死」に向き合うことが出来ていたのは、それが一種の救済であると頭の片隅では思っていたからだったと、今になって思う。
生きているのに、私は此処に居るのに、誰も気にとめてくれない。
死んでいるのと何も変わらない。そんな日々。
認められなくて当然。無いものとして扱われて当然。
でも、本当はこうして誰かに認められたかったのだと、私は漸く気づいた。
15人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:*yuki | 作成日時:2020年4月22日 14時