それは稲光の様でした ページ4
たった今、息を飲むという言葉の意味を知った。
目の前に佇むのは、身が竦む威圧感を兼ね備えた異形の姿。
片手に握っている槍のようなそれは、彼の左肩を射抜いたそれと似ている。
恐らくこの者が所持している武器と同様のもので間違いない。
カタカタと小刻みに震える体を抱き、どうにか逃げようと後退する。
けれど、肩を射抜かれた後、目を覚まさないままの彼を置いて行くわけにもいかない。
徐々に距離を詰めてくる、にんまりと口許に孤を描いた異形からは、血肉の腐ったような臭いがした。
ひたすら繰り返している“人間”“食べる”の二言からして、私はきっと喰われるのだろう。
踵にひっかかった何かに蹴躓いて、私はその場に尻もちをつく。
目先に向けられた槍。
怖い。…怖い、けれど。
こんな何も無かった私に、神様は最後会わせてくれた。
あんな短時間だったけれど、心地の良い時間だった。
死ぬ実感なんて湧かない。
でも私はきっと死ぬのだ。
逃げられる保証もないのなら、このまま潔く死んでしまおう。
ふ、と目を閉じかけると同時に、突如空気が変わった。
それは一瞬のこと。
目前で走った、眩い一筋の雷。
下卑た笑いを浮かべていた異形の首から先が消えて無くなる。
爪先に当たった硬い感触に目を向けると、そこには先程の異形の頭。
思わず足を引いて再び顔を上げると、視界の端に見えたのは先程の彼の姿だった。
腰に提げている刀を鞘に収めると、瞑られていた目が開かれる。
そして辺りを見渡すなり、頭の無い異形の姿を見つけて「死んでる!?」と顔色を変え、「なんか痛いんだけど!?」と自分の負傷に気づいて子供のように泣き出した。
ころころと変わる彼の表情をぼんやり見つめながら、私は今起きた出来事を思い返す。
目視するにはあまりにも速すぎた。
でも、あれはきっと彼がやった事。
一瞬のうちに目の前を駆け抜け、異形の首をはねたその稲光は、私を夢中にさせるには容易いものだった。
15人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:*yuki | 作成日時:2020年4月22日 14時