第九十九章 ページ1
No side
外道丸に乗り、高原を走るゾム。
その腕の中には弱っていくAの姿がある。
休みもなしで走り続けているからか、外道丸の息は荒い。
「すまん外道丸、もうちょい頑張ってくれ……!」
同じく披露しているゾムの言葉に外道丸は力強い走りで応える。
もうすぐ夜明けの日が昇る時刻。
彼らが帰るべき国はもう目と鼻の先にまで迫っていた。
この最中、一度も目を覚まさなかったA。
それでも、脈打つ感覚が伝わってくる。
それだけでまだ希望はある。
国にたどり着き、人気のない大通りをスピードを緩めずに走り抜ける。
見慣れた光景になり、改めて外道丸の速さが実感された。
城への正門前には警備兵の姿が二つ見える。
警備兵はこちらに向かってくるのが見慣れた馬、そして幹部であることを理解すると素早く門を開けた。
鍛えられた視力とベテランの行動力は素晴らしいものだった。
しかし、それをゾムが誉める余裕はない。
開かれたばかりの門をくぐり抜けて、そしてようやく外道丸が止まる。
ゾムが飛び降りるのと同時に足を折り曲げた外道丸。
お礼を一言告げると、ゾムはすぐに背を向けて医務室に走る。
すれ違う警備兵が何事かと凝視するがちゃんと理解できた者は少ないだろう。
「しんぺい神!!」
ドアを蹴り開けてゾムは控えているであろう軍医の名を叫ぶ。
名を叫ばれたしんぺい神はゾムを、そしてその腕に抱えられたA姿を見て一瞬驚くが、すぐにすべき行動を開始する。
「奥へ運んで、すぐに始める!!」
彼の一声で数人の助手たちが一斉に動き出す。
ゾムはその内の一人にAを預けるとしんぺい神に声をかける。
「しんぺい神、Aの怪我は……」
「目の事はグルッペンから聞いてるよ。怪我も想定していたより少し酷いぐらい。大丈夫。死なせないよ。それよりゾムもしっかり休んでおいて」
頼もしくも優しい彼の言葉に頷くと彼は足早に奥へと消えていった。
静かになった医務室の中。
そこでようやくゾムは身体の疲労に脚をふらつかせる。
「ゾム様、怪我の手当てを……」
「いらん」
「……わかりました」
背中の痛みなどすでに感じなくなっていた。
それどころではないのだ。
ゾムは壁に背を預け、顔を下げる。
しんぺい神がああ言ってくれたのなら大丈夫だ、と自分に言い聞かせ、彼女の笑顔を思い浮かべた。
それだけで涙が出そうになるのを抑え、ただ待つ。
「ゾム、A!!」
その時、扉が勢いよく開かれた。
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リノ(プロフ) - うじうじ抹茶さん» ありがとうございます……!!!頑張りますね!! (2017年12月10日 17時) (レス) id: 02182e081c (このIDを非表示/違反報告)
うじうじ抹茶(プロフ) - 良い話・・・。目から汗が出てきそうですわ。更新頑張って下さい! (2017年12月10日 15時) (レス) id: b6ff471b34 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:リノ | 作成日時:2017年10月21日 13時