第五十六章 ページ6
説教を覚悟していた私の耳に届いた彼の言葉。
いじけたような、拗ねたような、そんな声色。
拍子抜けして『へ?』なんて情けない声が出てしまった。
その様子を見て彼は口を尖らせる。
「誰かさんが言ってたやん。目ぇ離すなって」
『……あ』
「いきなりおらんようなるとか心臓に悪いねん、ホンマ」
思い返してみれば、資料はそのままでペンも放って部屋を開けていた。
確かに少しなりとも何かあったのかと思う……のかな?
『ごめん。私が言ったのに無責任だったね』
「おう、もう勝手に行かんでな」
わかればよし、と私の頭を乱雑に、それでも優しく撫でた。
すぐにその手は離れてしまい、彼を見るとすでに背を向けている。
方向的にトントンの部屋……。
『まだ仕事残ってるの?』
「あー、まあ。今日はもう寝んつもりやから大丈夫やで」
一体何が大丈夫なんだろう。
仕事は間に合わせるとかそういうのじゃない。
こんなのが続いたらそう遠くない内にトントンが倒れちゃう。
私も手伝うよ、と言おうとして、ハタとあれを思い出した。
今でいいのかな。
そう考えるも、時間にしてほぼノータイム。
私はトントンの背中に抱きついた。
「うお、え!?」
動揺する声が聞こえる。体もビクッと大きく揺れた。
こっちを向こうとするから、さらに強くしがみついてその動きを阻止する。
そしたらトントンは一切動かなくなった。
「ど、どうしたん?」
『……無理し過ぎだよ』
「え?」
『……無理し過ぎなの。たまには休んで』
でも仕事が、なんて呟くのできつくお腹辺りを絞める。
ぐぇ、と嗚咽が聞こえた。
『……トントンが心配なの』
「……」
『今日の分なら私がやるから』
それができるくらいには、私だって成長したつもりだ。
少しでも彼の力になるために頑張った。
でも、もっと頼ってくれてもいいのに。
そんな子供みたいな駄々を心の中でこねていると、トントンが私の腕をほどいて、正面から抱きついていた。
「それでAが体調崩したらどうすんねん。俺だって心配なんやぞ」
『少しくらい……』
「俺が仕事をする理由と同じや」
『……じゃあ手伝う』
「諦め悪いなぁ。ほんなら手伝ってもらおか」
そっと離れた温もり。
大先生がいた時と比べて随分と機嫌が良くなったみたい。
私は頷いて一足先に進んだ彼の後ろをついていく。
ちらりと後ろを窺うと、彼女の姿が見えた。……これでよかったかな。
(不意打ちとか心臓に悪いって……ホンマ)
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リノ(プロフ) - 綾波夜見（自宅パソコン）さん» コメントありがとうございます。イラつく女を書くのは個人的に楽しかったです(笑)ありがとうございます！！ (2017年9月29日 21時) (
レス) id: 02182e081c (このIDを非表示/違反報告)
綾波夜見（自宅パソコン） - イラーナさんにものすごくイラつきました←そして、そんな女にプレゼントしている鬱先生にも← いつも楽しく読んでいます！！更新のほう、無理しない程度に頑張ってください！！応援してます！！ (2017年9月29日 18時) (レス) id: 624c95f6b5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：リノ | 作成日時：2017年9月6日 21時
