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第七十九章 ページ29

No side


「昔、自らの故郷の村を崩壊に導いた、悪魔の女ですわ」


女の言葉に一同は一瞬思考を停止させる。

この女はルンズェ国の隣国、メリア国の貴族。
鬱に好意を寄せており、何かと絡んできていた。
去年のパーティーは欠席していたようで、その分いつもより媚が強く感じる。

そんな女が発した言葉。


「あんた、何を知った上でそんなこと言ってんや」


もちろん、すぐに信じられるわけがない。
ゾムは誰よりも早く女の言葉を否定し、言い返す。
少し遅れて他の四人も女に視線を向け、続きの言葉を待つ。
女はその妖艶な笑みを崩すことなく紅い唇を動かした。


「全部知ってますのよ?わたくしの祖国、メリアはその近くですもの」

「何を根拠に……」

「その女の故郷、ガダラ村はルンズェとラギアの貿易仲介点でしたの。もちろんメリアも少々関わってましたわ」


鬱から腕を離しながら女はAに近づく。
それをゾムが間に入ることで阻止した。
Aを良く思っていない女を警戒しているようにみえる。


「あら、随分と大切に思ってるのね。でも、警戒はわたくしだけじゃなく、その女にもしたほうが良くてよ」

「こいつとあんたは違う」

「ええ違うわ。一緒なんて言われたくない。そんな悪魔の女となんて」

「……お前、いい加減に」


女の挑発に飛び掛かりそうになったゾムを止めたのは、ずっと黙ったまま俯くA。
ゾムの腕を強い力で掴んで離さない。
どうして止めるのか、困惑するゾムに女は尚も言葉を重ねる。


「いい子ぶってるその女はね、ルンズェの皇帝とラギアの現皇帝のお気に入りでしたの。だから両国はその女に自国に来ることを要求したわ。幸せな話よね、村娘が皇帝に気に入ってもらえて王都暮らしができるなんて」


わざとらしい嫌味を言いつつお酒を運んでいるボーイからシャンパンの注がれたグラスを取り、口に運ぶ。
その一連の動きは、どんな男でも魅了させてしまうようなものだった。


「でも、その女はどちらも断ったわ。浮かれて調子に乗ったのか、より強い方に行きます、なんて戯言まで言って。だからルンズェとラギアはそれを証明するために争った」


女はまた一口グラスを傾ける。
周りは変わらず賑やかなのに対してこの場の空気はえらく思い。
それが彼らの心を少しだけ不安にさせていた。


「そして長く続いた戦争の末。貿易が衰え村全体が貧しくなった時、その女はこう言ったわ」



「どちらにも行く気はありませんってね」

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リノ(プロフ) - 綾波夜見(自宅パソコン)さん» コメントありがとうございます。イラつく女を書くのは個人的に楽しかったです(笑)ありがとうございます!! (2017年9月29日 21時) (レス) id: 02182e081c (このIDを非表示/違反報告)
綾波夜見(自宅パソコン) - イラーナさんにものすごくイラつきました←そして、そんな女にプレゼントしている鬱先生にも← いつも楽しく読んでいます!!更新のほう、無理しない程度に頑張ってください!!応援してます!! (2017年9月29日 18時) (レス) id: 624c95f6b5 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:リノ | 作成日時:2017年9月6日 21時

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