第七十四章 ページ24
その果実屋の見た目はまだ新しいように見受けられた。
八百屋などとは違い、外に商品は置かれていない。
カランカランとドアベルを響かせて店内に入る。
「こんにちは〜」
サイドテールさんの挨拶に続いて私も言おうとした時、レジに二人程見つけた。
若い男女。仲睦まじく一冊のノートをのぞき合っている。
私達に気付いて驚いたように動きを止めていた。
「昼間っから見せつけてくれちゃってー、羨ましいですよ!」
「相変わらず、仲がよろしいようで」
彼女達の言葉でバッと距離をとり、恥ずかしそうに目を逸らす。
様子を窺う限り、夫婦なのだろう。
黒い短髪の男性がはにかみながら対応する。
「ははは、いらっしゃい。今日は何を?」
「料理長から、ミンスパイ用のドライフルーツを見繕ってほしいとのことです」
「それなら丁度良かったわ。昨日幾つか仕入れたのよ」
金色の緩いウェーブがかかった背中までの髪を揺らして女性が棚に向かう。
えーっと、と呟きながら探し、取ってきたのはドライフルーツが入った瓶。
よく見かけるものから始めてみるようなものまであった。
流石果実屋さんだ。
「そういえば、そちらのお嬢さんは初めて見る顔ですね」
「最近来たばっかりなのに何言ってるんですか〜」
「そうですよ、私達ともまだ二か月の付き合いでしょ!」
女性から受け取った瓶から取り出したドライフルーツを別の瓶へ小分けにしながら男性が私に視線を向ける。
お店が新しいと思ったけど最近この国に来たんだな。
他の国から来たから珍しい果実があるのかも。
「こちらは書記長殿の補佐、A様。今年の春からなんです」
「春から……そうでしたか、じゃあもうすぐで一年経ちますね」
『あ、言われてみれば……あっという間でした』
「それは、いいことですね」
柔らかい笑顔を向ける女性。
おおらかな雰囲気がひしひしと伝わってくる。
思えば、確かにもうすぐこの国に来て一年が経つ。
あっという間と言ったが、正直、まだ一年も経っていなかったのかと思えた。
そのことに驚いたし、そう思ったことにも驚いた。
「大切な人との時間は一分一秒、噛み締めてくださいね」
悔いの残らないように、と女性は私の頬を撫でる。
その手はひんやりとしていた。
そっと女性の後ろに居る男性に視線を向ける。男性も微笑んでいた。
この二人だからこそ、その言葉に納得させられる。
はい、と返事を返し、商品を受け取って店を後にした。
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リノ(プロフ) - 綾波夜見（自宅パソコン）さん» コメントありがとうございます。イラつく女を書くのは個人的に楽しかったです(笑)ありがとうございます！！ (2017年9月29日 21時) (
レス) id: 02182e081c (このIDを非表示/違反報告)
綾波夜見（自宅パソコン） - イラーナさんにものすごくイラつきました←そして、そんな女にプレゼントしている鬱先生にも← いつも楽しく読んでいます！！更新のほう、無理しない程度に頑張ってください！！応援してます！！ (2017年9月29日 18時) (レス) id: 624c95f6b5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：リノ | 作成日時：2017年9月6日 21時
