第二十二章 ページ22
ゾムside
彼女ときた城下町。
見慣れた場所のはずなのに、何故か新鮮だった。
たくさん話して、一緒に過ごして。
彼女を独り占めできていると思うと優越感があった。
今、Aの笑顔は俺に向けられている。
それだけで、それだけのことでこんなにも満たされていた。
色々見て回っている途中、ふと雑貨屋が目に入る。
小さなショーウィンドウに控えめに置かれた髪飾り。
Aの綺麗な黒髪に良く映えて似合いそうだ。
……帰りに買ってプレゼントしよう。
きっと喜んでくれる。
彼女の笑顔を思い浮かべて、勝手に頬がにやけた。
そうこうしてると時間はあっという間に過ぎて、もう夕暮れ。
Aには申しわけないけどダッシュで買ってくるから待っててもらうことに。
驚いた顔も楽しみだな。
・
無事に買い終わり、期待に胸を膨らませつつ走ってAのところに向かう。
とてもいい日だったな。
そう思っていたのに。
……噴水のところに戻ってみれば、見知らぬ男が二人、Aにまとわりついていた。
一人は手首を、一人は肩を。
それを理解するより先に怒りが沸き上がり、俺は声をかける。
それに気付いた男たちが俺に明らかな敵意を見せる。
俺も対抗しようと男たちに近づいて……。
『……っ』
Aが泣いているのに気付く。
プツンと何かが切れる音。
溢れてくる殺意。
無意識のうちに隠し持っていたナイフを取り出す。
殺したい。Aを泣かせたこいつらを……今すぐ殺したい。
……でも、わなわなと震える手を何とか抑え、俺は口を開く。
「今すぐそいつからその汚ねぇ手を離せ」
そう言えば男たちはすぐにどこかに逃げていった。
好都合だ。これ以上俺の前にいられたら本当に殺しそうだったから。
「A」
ナイフをしまい、安心させるために彼女の名前を呼ぶ。
Aはゆっくり俺の方を向いて……何かを言おうとした、が。
それは言葉にならず、また涙を流してしまう。
その涙を見て、俺は激しい後悔に苛まれた。
どうしてずっと彼女の傍にいてあげなかったのか。
自分から誘っておいてほったらかしにしてしまった。
怖い思いをさせてしまった。
……Aを泣かせたのは、俺だ。
男たちに偉そうに言ったくせに。
俺は何も正しいことができていない。
情けない。かっこ悪い。
「ごめんな」
俺は彼女に駆け寄って力いっぱい抱きしめた。
彼女の体は、小刻みに震えたままだった。
189人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
リノ(プロフ) - 本田大和さん、ありがとうございます!様!?私の妄想に共感して下って嬉しい限りですー!! (2017年9月3日 17時) (レス) id: 02182e081c (このIDを非表示/違反報告)
本田大和(プロフ) - きゃあああーーーっ!!リノ様の文章力で妄想が止まりませんww これから誰と絡んでいくのか楽しみで仕方がありません(*゚∀゚)b (2017年9月3日 10時) (レス) id: ed9a366666 (このIDを非表示/違反報告)
リノ(プロフ) - 夏海さん、ありがとうございます!嬉しいですー!私自身、最初読み間違えたんですよ(笑)、 (2017年8月30日 23時) (レス) id: 02182e081c (このIDを非表示/違反報告)
夏海(プロフ) - 話のテンポがすごく好きです。そして「ボロボロさん」には草を禁じ得ない笑 (2017年8月30日 23時) (レス) id: 8f3bd46b36 (このIDを非表示/違反報告)
リノ(プロフ) - リホさん、ありがとうございます!ありがちな話ですけど楽しんでいただければ幸いです! (2017年8月29日 10時) (レス) id: 02182e081c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:リノ | 作成日時:2017年8月21日 13時