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そこからさらに半月が経ち、そして現在四月の半ば。私はもう次のつばき野演奏会のことを考えていた。
まだ八ヶ月以上先のことだけど、より完成度の高い演奏をするためには多くの時間が必要なのだ。
そんなわけで、先ほどの会話に戻る。
「…あの、花宮先生」
「ん?何?」
「気が早いかもしれませんが、そろそろつばき野演奏会でやる曲の詳細を教えていただけないでしょうか。早めに譜読みなどを行っておいたほうが、私としては今後の自主練メニューも組みやすいですし…」
彼女は私の問いかけにぴくりと眉を動かし、「ああ、そういえばあなたにはまだ何も話していなかったわよね」と応答した。
そして彼女はお箏の柱を全て外し終えると、こちらに向き直って口を開く。
「この時期からもうつばき野のことを考えているなんて、あなたも成長したのね。感心しちゃった」
「いえ…去年私がつばき野で披露した『螺鈿』、夏から譜読みを始めましたがもっと早くから取り掛かればよかったと深く反省しましたので…次の課題曲のことを早く知っておくに越したことはないかと」
「へぇ。だいぶお箏に向ける熱意が変わってきたようで嬉しいわ。これまで散々あなたのことを扱いてきた甲斐があった」
そう言ってクスリと微笑を浮かべた花宮先生が、世にも恐ろしいほどに美しくて。
普段厳しい彼女が、私に感心している様子なのが伝わってくる言葉も相まって、ドキドキしてしまう(これは不可抗力!先生がお綺麗なせい!)。
「今年のつばき野演奏会であなたに演奏して欲しい曲についてだけど」
「…はい」
そう言った花宮先生の大きな瞳が、私の両眼の奥を射抜いた。
「あなたには、その曲の楽譜を自分でとってきて欲しいの」
「…え?」
…何? 楽譜の話? 曲の詳細とかでは…なくて?
彼女の発言の意図を掴めなくて首を傾げるけど、花宮先生は構わず話を続けた。
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Rizuki(プロフ) - ここちさん» 恋愛要素少なめの本作ですので、ネット小説の需要を考えると多くの人の目に留まる作品ではないのかもしれませんが…こうやってあなた様のように温かなお言葉をくれる読者様がいることを私は誇りに思います。ありがとうございます、そのお言葉とても励みになりました。 (2021年4月22日 11時) (レス) id: 1b129a5f85 (このIDを非表示/違反報告)
Rizuki(プロフ) - すぎさん» 等身大に書けていましたでしょうか…!?ありがとうございます、そのお言葉とても自信になります(; ;) (2021年4月22日 11時) (レス) id: 1b129a5f85 (このIDを非表示/違反報告)
Rizuki(プロフ) - 通行人さん» 「文字列が美しい」なんて、最上級の褒め言葉ですよ…!(; ;)そんな風に言って頂けて非常に恐れ多いところですが、ありがとうございます。とても嬉しいです。気が向かれましたら是非またいらしてください、いつでもお待ちしております。 (2021年4月22日 11時) (レス) id: 1b129a5f85 (このIDを非表示/違反報告)
Rizuki(プロフ) - ハネムさん» 登場人物も設定も拘りに拘り抜いていた箇所なので、そこに気づいてくださるハネムちゃんのような読者様がいらっしゃると本当に心強い!今後も恐るべき亀更新で進んでいきますが、温かく見守って頂けますと幸いです。いつもありがとうございます大好き(; ;) (2021年4月22日 11時) (レス) id: 1b129a5f85 (このIDを非表示/違反報告)
Rizuki(プロフ) - 夕顔さん» 信じられないほどの亀更新だったにも関わらず、序章完結まで温かく見守ってくださったこと、とても光栄に思います。自由気ままに書いておりますので、もしまたご都合が合いましたら遊びにいらしてください。この度はご感想ありがとうございました。 (2021年4月22日 8時) (レス) id: 1b129a5f85 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Rizuki | 作成日時:2021年1月7日 21時