音の葉◆序章【山田二郎】

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授業終了の鐘の音に起こされて、私はハッと意識を持ち上げた。硬い机の上に突っ伏していたせいか、おでこに鈍い痛みが走っている。


「Aちゃんおはよう。よく寝てたね」
「ん…」
「昼休みだよ。ご飯食べる？」
「うん…」


　友人に促され、私は椅子に座ったまま背伸びをした。

数学の授業は毎度どうにも目が開かない。おじいちゃん先生の呪文のような口上を聞いていると、いつの間にか瞼が降りてきてしまう。それに今朝は不思議な夢を見ていたせいか眠りが浅く、睡眠不足を補おうとする身体が、活発に動いてくれなかったのだ。

　まだ覚醒しない頭でお弁当箱を取り出し中身を噛み締めていると、友人は口を開いた。


「そういえばAちゃん、見つかった？ 今度Aちゃんがやるっていう合奏曲の、演奏相手」

「いや…まったく。どの人もその時期は忙しいみたいだし、何より皆様に『仕方ない、協力させてあげよう』って気にさせることができない私の実力不足と、カリスマ性のなさが原因」

「おおっと…これは、だいぶネガティヴモード入っちゃってるね」



　友人が苦笑するのを、Aも苦笑いで返した。

ネガティヴになるのも無理はない。熱意を持って相手に「お願いします」と頼んでも、すべてやんわりと断られてしまうのだ。

　頼んだ相手の電話越しの困惑加減にも、「ごめんね」と申し訳なさそうに紡がれる言葉にも、Aは複雑な感情を覚えた。彼女の心は、少しずつ焦りと悲しみに蝕まれていた。



「ねえ、余計なおせっかいかもしれないんだけどさ。Aちゃんって今、本当に誰かからの助けを強く求めてる？」

「え？」



　そんな言葉をかけられるとは思わず、Aは目を丸くして友人を見た。




「と…当然じゃん。だって私今、こんなに必死になって相手を探してるんだよ？」

「本当に？ ここ数日遥ちゃんから話を聞いている限りでは、そうやって遥ちゃんが誰かに演奏を依頼する時の言葉に、肝心の『助けて欲しい』っていう気持ちがうまく乗っかっていないような気がするのだけど」

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