音の葉◆序章【山田二郎】

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三味線の相手探しは難航した。三曲協会に所属している団体の三味線奏者さんたちは皆、十二月末には演奏会が立て込んでいるらしく、私に協力することができないとのこと。


その中には私と同じくつばき野演に出場する人もいるけど、同時期にもかかわらず自曲以外に『海鳴り』を完成させるというのは、なかなかに荷が重いらしい。


(覚悟していたことではあったけど、こうも断られ続けると流石にこたえるな)


　やっぱりこんなひよっこ高校生に力を貸してくれる人なんていないか。

　自宅の自室で、私はスマホを充電器に差し込むなりベッドに横たわった。白い天井をしばらくの間無気力に眺めた。色んな団体に電話をかけ、たくさん声を張ったせいか喉が痛い。

仰向けの体制のまま、左腕をベッドサイドに伸ばす。リモコンを取り、電灯を狙ってスイッチを押した。部屋は途端に暗闇を囲い込み、窓から差し込む淡い光だけが視界の頼りとなる。


「……はあ」


　誰か、私に力を貸してくれる人はいないだろうか。寝返りを打って、薄い毛布に包まる。瞳を閉じると、すぐに眠気に意識を沈められた。

＊


　常闇に射す光はいずこか。追いかけ追いかけ、走る、走る。一体ここはどこだろう。耳をつんざく嵐。岸を呑み込む荒波。海だ。でも、灯りもないこんな大雨の中では、その境界線さえ見つからない。

どこまでが空で、どこからが海で、どこからが陸なのか。地に足着かぬ感覚を覚えながら、その見境ない空間に向かって一目散に駆け続けていた。靴も履かず、ただひたすら。でも、どうして私がこんな場所に？ どうしてこんなに必死になって、何かを探しているの？

　額に、頬に、打ち付けるのは雨か、それとも。


「…！」


　足を止めた。どこからか、音色が聞こえてくる。慌ててあたりを見渡すも、視界に広がるのはやはり、波を高く持ち上げ、憤慨する海の姿だけ。なのに、美しい音の葉は確かにこの鼓膜に訴えかけ、私を呼んでいる。自分はここにいるのだ、と。

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