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花宮先生からの思わぬキラーパス。
彼女の口から出る、こういった類の発言が、今に始まったものじゃないということは当然理解している。
去年花宮先生によっていつの間にかつばき野演の出演を取り付けられていたことにしてみても。
今回彼女が選曲した『海鳴り』の難易度が私の実力に割り合っていないことからしてみても。
彼女が教え子に無茶させたがりの性格であることはちゃんと把握しているつもりだった。
ただ、いくらなんでも、それは。
「花宮先生! 私には三味線奏者さんとの繋がりがほとんどありません。三味線を弾けるような友人もいません。そんな中で、私との合奏のために三味線やってくださる方を探すなど、砂漠内でオアシスを探すも同然じゃないですかっ」
「あらそう。じゃあ、あなたの場合はそういった人たちとの繋がりを作るところからのスタートね?」
「なっ…」
この人は本気でおっしゃっているのか? 理解が追いつかず自身の眉根に皺が寄る。されども、花宮先生は容赦なく言葉を続けた。
「三曲協会の団体リストをあげるから、そこで協力してくれる人がいないか探してみなさい。私の名前を出せば一人くらいきっとすぐに見つかるわよ」
「でっ…でも私、本当に知り合いとか全然いないし、こんな高校生のひよっこなんかに力を貸してくれる人なんてきっといませ――」
――不意に、歩き続けていた背中が立ち止まって。
典麗な香りの漂うそこへ、私は顔ごと飛び込んでいった。彼女の上等な着物に自分の唾がついてやしないだろうか、慌てて距離を取って彼女を見上げる。
さすれば
どうやら私は、花宮先生の逆鱗に触れたらしい。
「ちょっと、A。まだやってもないくせに弱音を吐かない。私がそういうの一番嫌いだってこと、あなたもよくわかっているでしょう? 文句言うのは全ての団体に声をかけてからにしてちょうだい」
「うっ……」
彼女のプレッシャーを前に、私はいとも簡単に押し黙らせられてしまった。
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Rizuki(プロフ) - ここちさん» 恋愛要素少なめの本作ですので、ネット小説の需要を考えると多くの人の目に留まる作品ではないのかもしれませんが…こうやってあなた様のように温かなお言葉をくれる読者様がいることを私は誇りに思います。ありがとうございます、そのお言葉とても励みになりました。 (2021年4月22日 11時) (レス) id: 1b129a5f85 (このIDを非表示/違反報告)
Rizuki(プロフ) - すぎさん» 等身大に書けていましたでしょうか…!?ありがとうございます、そのお言葉とても自信になります(; ;) (2021年4月22日 11時) (レス) id: 1b129a5f85 (このIDを非表示/違反報告)
Rizuki(プロフ) - 通行人さん» 「文字列が美しい」なんて、最上級の褒め言葉ですよ…!(; ;)そんな風に言って頂けて非常に恐れ多いところですが、ありがとうございます。とても嬉しいです。気が向かれましたら是非またいらしてください、いつでもお待ちしております。 (2021年4月22日 11時) (レス) id: 1b129a5f85 (このIDを非表示/違反報告)
Rizuki(プロフ) - ハネムさん» 登場人物も設定も拘りに拘り抜いていた箇所なので、そこに気づいてくださるハネムちゃんのような読者様がいらっしゃると本当に心強い!今後も恐るべき亀更新で進んでいきますが、温かく見守って頂けますと幸いです。いつもありがとうございます大好き(; ;) (2021年4月22日 11時) (レス) id: 1b129a5f85 (このIDを非表示/違反報告)
Rizuki(プロフ) - 夕顔さん» 信じられないほどの亀更新だったにも関わらず、序章完結まで温かく見守ってくださったこと、とても光栄に思います。自由気ままに書いておりますので、もしまたご都合が合いましたら遊びにいらしてください。この度はご感想ありがとうございました。 (2021年4月22日 8時) (レス) id: 1b129a5f85 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Rizuki | 作成日時:2021年1月7日 21時