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指が踊る。弦をはじく。そうすれば無限に広がる、音の葉の世界。

初めて(こと)の演奏を見たあの日から、私の世界はそれ一色に染まった。

いつかこんな風に弾けたらいいなと思った。自分の手で、この美しい音色を奏でたいと願った。




「これからよろしくね。 Aさん」




仕立ての良い着物に身を包んだ女性が、手を揃えて私に頭を下げる。

その優雅な仕草に目を奪われて、私は大きな声で返事をしたのだ。




「花宮先生、よろしくお願いしますっ!」




いつか、いつか。私の紡ぐ音の葉で、こんな風に人の心を動かせたなら。







**





……ああ。純粋に夢見てた一年前が懐かしくてしょうがない。(こと)を始めた時はまさか、こんな怒涛の稽古の日々が待ち受けているだなんて想像もしなかった。


「はい、止まって」


ぱんぱん、と二回手拍子が響いたので私は演奏を止める。恐る恐る顔を上げれば、目をキッと吊り上げた状態の花宮先生と目が合った。



「一二ページ四小節目の休符記号、ちゃんと見えてる?自分流の弾き方をする前にまず楽譜通りに弾くことを最優先なさいって、いつも言っていることでしょ」

「っ、すみません」



私は楽譜に目を落とし、傍らの赤サインペンに手を伸ばした。きゅぽっと小気味良い音と共にキャップを外し、指示された休符記号に大きな赤丸をつける。



「お稽古前に楽譜をしっかり読み込んでおくのは基本中の基本よね?いくらあなたが(こと)に慣れてきたからとはいえ、中だるみは許さないからそのつもりで」

「はい…」

「それじゃ、今のページの二行目からもう一回通すわよ」



そう言ってすぐさま演奏体勢に入った花宮先生を追って、私は慌ててサインペンを元あった位置に戻した。

気合いを入れるように両腿を軽くパンパンと手で叩き、(こと)に対して四十五度の角度で正座し直す。



「……さん、はい、」



花宮先生の掛け声を合図に、楽譜の指示する音を爪ではじいていく。

三の弦から八の弦。三の指と一の指――すなわち中指と親指で別々の弦をはじいたら、鼓膜を揺らすのは雅な箏の音。



ああ。お稽古は大変だけれど、やっぱりこの音は好きだ。

目で追うのも難しい速度で手を動かしながら、私は(こと)を弾けることの幸せを噛み締めていた。

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Rizuki(プロフ) - ここちさん» 恋愛要素少なめの本作ですので、ネット小説の需要を考えると多くの人の目に留まる作品ではないのかもしれませんが…こうやってあなた様のように温かなお言葉をくれる読者様がいることを私は誇りに思います。ありがとうございます、そのお言葉とても励みになりました。 (2021年4月22日 11時) (レス) id: 1b129a5f85 (このIDを非表示/違反報告)
Rizuki(プロフ) - すぎさん» 等身大に書けていましたでしょうか…!?ありがとうございます、そのお言葉とても自信になります(; ;) (2021年4月22日 11時) (レス) id: 1b129a5f85 (このIDを非表示/違反報告)
Rizuki(プロフ) - 通行人さん» 「文字列が美しい」なんて、最上級の褒め言葉ですよ…!(; ;)そんな風に言って頂けて非常に恐れ多いところですが、ありがとうございます。とても嬉しいです。気が向かれましたら是非またいらしてください、いつでもお待ちしております。 (2021年4月22日 11時) (レス) id: 1b129a5f85 (このIDを非表示/違反報告)
Rizuki(プロフ) - ハネムさん» 登場人物も設定も拘りに拘り抜いていた箇所なので、そこに気づいてくださるハネムちゃんのような読者様がいらっしゃると本当に心強い!今後も恐るべき亀更新で進んでいきますが、温かく見守って頂けますと幸いです。いつもありがとうございます大好き(; ;) (2021年4月22日 11時) (レス) id: 1b129a5f85 (このIDを非表示/違反報告)
Rizuki(プロフ) - 夕顔さん» 信じられないほどの亀更新だったにも関わらず、序章完結まで温かく見守ってくださったこと、とても光栄に思います。自由気ままに書いておりますので、もしまたご都合が合いましたら遊びにいらしてください。この度はご感想ありがとうございました。 (2021年4月22日 8時) (レス) id: 1b129a5f85 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:Rizuki | 作成日時:2021年1月7日 21時

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