1話 ページ3
「おはようございます、土方さん。
今日はお早いんですね。」
いつもより少し早く目覚め、特に理由もなく食堂に向かった。
そんな俺に、かなり早くから起きていたであろうAが微笑みながら言う。
「ああ。早く目覚めちまっただけだよ。Aも
いつもこんな時間から起きてるのか?」
「勿論。何しろ真選組の女中ですからね。
朝ご飯、もう少し待っててください。」
そこまで言うと、Aは調理台に向き直って、
俺に背を向けてしまった。
「おう。」
と短く返事をし、自室に戻る。
さっきの女は真選組女中、坂田A。
苗字から察せられるように、彼女は万事屋の妹。
だが、万事屋の妹とは思えないくらいよく働いてくれるし、気配りもできる。
あんな奴が、俺の妻だったらな、と考える事もある。
まあ、そんな事は考えるべきじゃないのだが。
自室で頬杖をつき、1人溜息をつく。
実はあいつは、ある人間の許嫁らしい。
だから、恋しちゃいけない。
とか言ってはいるが、その事実を知っているのも、真選組の中では俺だけだったりする。
彼女の秘密は、俺だけが知っている。
その彼女は、既に誰の嫁になるのか決まっている。
_皮肉なもんだな。
フッと自嘲気味の笑みを浮かべていると、
時計が鳴る。
朝食の時間か…
俺は再び食堂に向かった。
「おお、おはようございまさァ土方さん。
永眠しなかったんですね。」
「お前を永眠させてやろうか?」
「沖田さん、土方さん。やめてくださいよ。
朝から陰気臭いです。」
苦笑しながら仲裁に入るA。
Aに言われちゃ仕方ないと、俺も総悟も渋々
手を引く。
全員が席につき、朝食を食べ始める。
俺はいつも通りマヨネーズを取り、サラダにかける。
…これでも量は減らした方だ。
「土方さん、掛けすぎですよ…そんなんじゃうちの兄上と同じですよ?」
「万事屋と一緒にすんな」
「そうですぜA。土方さんよりかは旦那の方が
ずっとマシでさァ。」
「よーし喧嘩だ剣を抜けー!」
この憎たらしい餓鬼はどうにかならないのか?
軽く総悟を睨み付け、俺は朝食を食べ始める。
そのまま食べると素っ気ないからマヨを掛けているに過ぎない。
「いつも土方さんマヨ掛けてるから、美味しいですかって聞けないんですよ」
やめろ…その可愛らしい笑顔を俺に向けるな。
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作者名:今井李乃 | 作成日時:2018年10月5日 21時