第九話：逆光 ページ10
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倉庫にある木箱の上で、三人は座っている。
その一人の太宰は見るからに良からぬ本を読んでいた。
『わ、』
それを興味本位で覗き込むと、Aは短い声を上げた。
変化が乏しい涼しげな表情からでは、声を上げたものの引いているのか判らない。
「....本当に此処に現れるんですか？」
太宰は本から視線を外さずに、肯く。
「本当だよ」
それでも何故か不安気な彼に、太宰は安心させるように微笑んだ。
「心配いらない。こう見えても『武装探偵社』の一隅だ」
「...はは、凄いですね。自信のある人は」
自身と正反対だ、と敦は膝を折り曲げて縮こまった。
如何して彼は此処までして自己肯定感が低いのだろう、とAは横目で見る。
「僕なんか孤児院でもずっと“駄目な奴”って云われてて....その上、今日の寝床も明日の食い扶持も知らない身で」
嗚呼そうか。
彼
「こんな奴が何処で野垂れ死んだって。いや、いっそ喰われて死んだ方が」
敦は膝と膝の間に顔を埋めて呟いた。
それを二人が何も云わずに無言で見ていると、Aは視線を動かして口を開く。
『月が昇った』
その言葉と同時に、背後から大きな物音がした。
敦は肩をびくりと揺らして振り向くと、切羽詰まったような顔に汗を垂らす。
「ひ、人喰い虎だ。僕を喰いに来たんだ」
「座りたまえよ敦君。虎はあんな処からは来ない」
「ど、如何して判るんです！」
異常に思える程に冷静な太宰に、敦は声を荒げた。
「そもそも変なんだよ敦君。経営が傾いたからって養護施設が児童を追い出すかい？大昔も農村じゃないんだ」
「太宰さん何を云って────────────」
その間に、雲が避けて倉庫の中に月光が差す。
「君が街に来たのが二週間前。虎が街に現れたのも二週間前」
敦の瞳孔が縦に縮む。
「巷間には知られていないが、この世には異能の者が少なからず居る。その力で成功する者も居れば─────
力を制御出来ず身を滅ぼす者も居る」
覆った手の隙間から、獣の顔が覗く。
「大方、施設の人は虎の正体を知っていたが、君には教えなかったのだろう。
君だけが判っていなかったのだよ」
現身に飢獣を降ろす月下の能力者。
敦だった其れは、最早人の形をしていない。
月光に照らされた美しい白虎だった。
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作者名：椿 | 作成日時：2024年4月16日 20時
