第三話：悠々と流れる ページ4
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Aがイソップ寓話の話をしてから数分が経った。
「........えっ、と...........」
再び降りる沈黙の間に、敦は気まずさを覚える。
折角彼女が会話を繋ごうとしてくれているのに、如何してもお互い口下手なばかりに続かない。
況してや、彼女は表情が乏しい。
何を考えているのか、怒っているのか、苛立っているのか、喜んでいるのかなんて一切判りはしない。
敦が適当に話題を上げようとした時、彼女が声を上げる。
『あ、』
そして目の前の川を指差した。
『あれ』
「え？」
彼女に連れて敦もその指差す方向へと視線を動かす。
川から長い脚が逆さまに生えていた。
脚は一度ゆっくりと沈むとまた浮かび、くるりと一回転すると、今度は鳥たちに勢いよく啄まれる。
悪夢でも見ているのか、と両者共思った。
「ええい！」
それでも正義感に駆られたのか、敦は川に飛び込んだ。
水泳選手のような飛び込みをギョッと見つめているAだったが、数秒遅れて彼女も川に足を運ぶ。
『冷たッ....』
靴を脱いで水に脚を踏み入れると、ジャバン！と水音が大きく反響し、同時に脚が冷える。
太腿まで浸かった脚で敦の方へと向かった。
『手伝うよ』
「あ、有り難う....」
重そうに水中で運んでいたそれを、彼女は足首の部分を鷲掴みにすると引き摺るようにして陸に放り投げた。
扱いが雑なのと、華奢なのに力持ちなんだなと敦は思う。
「男の人だ....」
脚以外も露わになったそれは、長身の男だった。
癖のある焦茶色の蓬髪は水に濡れており、
中性的で整った顔立ちの美丈夫だ。
この男は一体全体、如何して川に流されていたのか。
「うおッ！」
突然、男は
そして、此処は何処だろうと辺りを見廻している。
『アンタ川に流されてたよ』
「だ...大丈夫ですか？」
Aは若干冷ややかな視線を送り、かたや敦は心配したような素振りで男を見下ろした。
「助かったか...................................ちぇっ」
Aの送る視線が、より一層冷ややかになった。
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作者名：椿 | 作成日時：2024年4月16日 20時
