第二十八話：谷崎兄妹 ページ30
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「すンませんでしたッ！」
谷崎が、土下座をする勢いで机の上で頭を下げる。
先ほど外出から帰ってきたAと家具の買出しに行っていた敦は、同時に首を傾げた。
「試験とは云え、随分と失礼な事を」
「ああいえ、良いんですよ」
この人良い人だ、と彼の謙虚な姿勢から敦は確信する。
『こっちこそ失礼な事して御免。あの爆破で貴方の眼が傷付いてなければ良いンだけど』
「僕は大丈夫だよ」
Aは珈琲に五つの角砂糖を入れて混ぜた。
いつか病気になるのではないかと、敦はくるくると
「何を謝ることがある。あれも仕事だ谷崎」
「国木田君も気障に決まってたしねぇ」
Aの隣に座る太宰が、「独歩吟客！」と国木田を若干揶揄いながら真似てポーズを決めた。
かたや国木田はガタン、と席を立つ。
そして暫くの間太宰をガミガミ叱ると、冷静を取り戻したのか席に座り直した。
「兎も角だ。貴様等も今日から探偵社が一隅。ゆえに周りに迷惑を振り撒き、社の看板を汚す真似はするな」
『はァい』
「伸ばすな小娘。正しくはハイ、だ」
『はい』
言葉を正され、Aは不満げにもう一度珈琲を啜った。
「俺も他の皆もそのことを徹底している。なぁ太宰」
「あの美人の給仕さんに「死にたいから首絞めて」って頼んだら応えてくれるかなあ」
「黙れ迷惑噴霧器！」
またもやガヤガヤと騒ぎ出す太宰と国木田を横目に、谷崎はA達に向き合った。
あれは気にしないでくれ、とでも云いたげな顔で。
「改めて自己紹介すると...僕は谷崎。探偵社で手代みたいな事をやってます。そんでこっちが...」
「妹のナオミですわ」
突進する勢いでナオミは谷崎の腕に抱きついた。
「兄様のコトなら何でも知ってますの」
兄妹とは思えない距離の近さに、敦は引き気味に問う。
「き、兄妹ですか？本当に？」
「あらお疑い？勿論どこまでも血の繋がった実の兄妹でしてよ...？このアタリの躯つきなんてホントにそっくりで」
ナオミの手は谷崎の腹を這う。
一方でされるがままの谷崎は、ダラダラと大量の冷や汗を顔にかいていた。
「いやでも」
そう云いかけた時、国木田が彼の肩に手を置いた。
“こいつらに関して深く追求するな！”
”あ......はい“
どうやら谷崎兄妹の関係を問うのは禁句らしい。
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作者名：椿 | 作成日時：2024年4月16日 20時
