第二十五話：都会の鼠 ページ27
.
項垂れる敦を横目に、太宰はAに問い掛ける。
「Aちゃんは入社しても構わないよね？」
『まぁ.......度胸と力は一丁前に持ってるつもりだし、私で良いのなら』
敦と違って、彼女は別に厭な顔をする訳ではなかった。
ただ、一つ気になることがある。と、太宰に向けて付け加える。
『給料ッてどンくらい？』
「このくらい」
太宰が給料が記されているであろうメモ用紙を見せると、Aは「おぉ」と声を洩らした。
そこそこ値が張った良い金額だった。
給料に釣られたAは、入ると頷いた。
「えぇ....入るの....？」
正気なのかと涙ぐんだ眼で敦は彼女を見る。
彼は死と隣り合わせな、あまりにも危険な職場で働きたくはないのだろう。
『昨日云ったろ。私は“都会の鼠”の方が良いッてさ』
“「都会の鼠は美味しい物が食べられるけど、危険な場所で暮らさなきゃいけない」”
“「危険でも其処にそれ以上の価値があるのなら、危険と隣り合わせでも構わない」”
敦は彼女と先日、河川敷でイソップ寓話の話をしたことを思い出した。
嗚呼そうか、彼女は都会の鼠なんだ。
彼女にとっての都会とは、この危険な職場。
彼女にとっての美味しい物とは、給料。
彼女にとってのそれ以上の価値とは、居場所。
『危険でもそれ以上の価値があるのなら、危険と隣り合わせでも構わないよ』
「度胸のある子が入ってきたねぇ」
「戦闘に長けた異能者が二人も増えた」と、太宰は嬉しそうに国木田に話しかける。
当然のように国木田はそれをあしらった。
『あの、一寸だけ外に行ってきても良いですか。戻ってくるンで』
「嗚呼、構わない」
何を思ってか彼女が許可を請うと、国木田は意外にもあっさり頷いた。
先程の発言から、敦と違い、逃げないと確信したのだろう。
『有り難う。二十分くらいで戻ってくる』
Aはそう伝えると、部屋を出て行った。
「Aさん............？？」
Aが出たと同時に、太宰は敦に視線を落とした。
敦は厭な予感を察知して、彼女の後を追おうと彼から距離をとって後退りをする。
逃さまい、とがっしりと腕を握られる。
「こらこら。何処に行くんだい？」
ひぃ、と云う敦の短い悲鳴は、
ドアの閉じる音に掻き消された。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 6人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：椿 | 作成日時：2024年4月16日 20時
