第十九話：新しい仕事 ページ21
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「何ですかこれ？」
太宰を見下ろして、敦は
「何だと思うね？」
「朝の幻覚？」 「違う」
瞬時に否定するなり、太宰はドラム缶に嵌った経緯を無駄に丁寧に話し出した。
「こうしたジサツ法があると訊き、早速試してみたのだ。が、苦しいばかりで一向に死ねない」
腹に力を入れながらドラム缶に徐々に嵌っていく太宰は「そろそろ限界」と云う。
側から見ればかなり滑稽だった。
「でもジサツなのでしょう？そのままいけば」
「苦しいのは厭だ。当然だろう」
納得していない様子で、敦が肯いた。
そしてAと協力してドラム缶をひっくり返し、嵌った太宰を出そうとした。
「痛てッ」
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『何処に行ってるの』
人が増え始めた街中を三人で歩きながら、行先を知らされていないAは問う。
同じく敦も、気にしたように太宰を見た。
「君達に仕事を斡旋しようと思ってね」
「本当ですか！」
食い気味に敦は身を乗り出した。
Aは「如何して私も」と云わんばかりの怪訝そうな眼で太宰に視線を送る。
それを敢えて、太宰は見て見ぬ振りをした。
「伝手の心当たりがあるから、先ずは探偵社に行こう。任せ給えよ、我が名は太宰。社の信頼と民草の崇敬と一身に浴す男───」
「ここに居ったかァ！！」
そう云いかけた時、遮るようにドスの効いた怒号が響く。
「このッ、包帯無駄遣い装置！！！」
独特な呼称に、三人は振り返る。
目先には太宰に指を指して通りすがりの人々の注目を集める、国木田の姿。
「この“非常事態”に何をとろとろと歩いて居るのだ！」
「朝から元気だなぁ。あんまり怒鳴ると悪い体内物質が分泌されてそのうち痔に罹るよ」
「何、本当か！？」
「メモしておくといい」
騙されていることにも気付かず、国木田は手帳に「怒鳴りすぎると痔に罹る」と万年筆を走らせた。
何処かで見た茶番劇だ。
『“非常事態”ッて？』
喧嘩を始める二人に、話題を変えようとしたAが訊く。
国木田はその言葉に反応すると、焦ったように声を挙げた。
「そうだった！探偵社に来い！人手が要る！」
「何で？」
「爆弾魔が.....
人質連れて探偵社に立て籠った！」
朝っぱらからなんて物騒な街なんだ、とAは思った。
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作者名：椿 | 作成日時：2024年4月16日 20時
