第十二話：哀しい娘 ページ13
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太宰が一歩踏み出す。
『───近寄らないで』
Aは一歩後退りし、チョーカーの側面に付いた
彼が異能を使ったのを見てから、態度が一変している。
そんな彼女に、太宰は安心させるように微笑む。
「安心し給え。危害を加えるようなことはしない」
それでも未だ、彼女は金具に指を掛けている。
金具は、あの爆破の異能力に関係するトリガーの一つなのだろうか。
「何故私を警戒するんだい？」
『
全員私を裏切った。傷付けてきた』
凡てに対して疑心暗鬼になった眼が、太宰を見る。
只々、虚構を見つめているだけのようだったそれは、あまりにも様々な感情を含んでいる。
計り知れない痛み、恐怖、苦しみ、怒り、憎悪。
それらの負の感情を凡て一瞬で感じられることの出来る、負の感情を同時に爆発させたような眼。
脳に直接訴えてくるように悲痛だった。
『大人はいつだってそうだった』
初めて彼女の本心を訊いた気がした。
怒っているような、哭き叫んでいるような、哀しんでいるような、怯えているような。
何かを失ったような、堪らない笑みだった。
「....Aちゃん。確かに私は、君の云う酷い大人かもしれない。けれどね、これだけは知っておいて欲しい。
世の中には、君が思うより優しい大人は沢山居る」
『.....本当に？』
少しだけ残った救いを求めるように、Aは訊いた。
「嗚呼そうさ」
彼女は金具に掛けていた指を外し、力無く腕を下ろした。
太宰はそんなAのもとに足を運び、目の前に立つと自分の手を差し出した。
Aは黙って、その手に自分の手を重ねる。
すると突然、太宰に腕を引かれた。
『ちょッ、と』
気付いた時には彼の懐の中に居た。
耳朶に単調に打つ鼓動が振動して、それが不本意にも自分の心を落ち着かせた。
懐かしい。
父は泣き虫な私を宥める時、こうやって抱き締めてくれた。
そして、大きな鼓動を聴かせてくれた。
─────父さん。
そう呟いたと同時に、彼女は深い眠りに堕ちた。
「....父親、ねぇ」
太宰は、彼女の伏せた瞼に滲んだ涙を指の腹で拭いた。
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作者名：椿 | 作成日時：2024年4月16日 20時
