第一話：見窄らしい ページ2
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水の上を漂うようにゆらゆらと歩く。
辺りには川のせせらぎ、電車の走る騒がしい音。
色素の薄い彼女の眼には、夕陽の光は眩しすぎる。
睫毛の多い切れ長の眼がパチパチと瞬きをする度に、
翳りがある燻んだ鉛色の瞳が現れた。
そして、
未成年である彼女が持っても良い代物では無い。
「おッ、オイ！其処の黒髪のアンタ！金を出せ！！」
気張っているが、威勢の無い声が後ろから訊こえる。
『.....なに？私、財布持ってないンだけど』
彼女は驚きもせずに淡々とそう云って振り返り、切れ長の眼を更に切るように鋭くした視線を向けた。
振り返った先には、片方だけ一房伸びた白髪の青年。
「そッ.....そんな.........」
何だろうこの見窄らしい格好をした青年は。
項垂れるように落胆して膝をつく青年を、
彼女は怪訝そうに見下ろした。
『金が無いの？』
そう訊いたと同時に、返事代わりに彼の腹が鳴る。
ぐう、と何とも情けない音だった。
『....砂糖菓子くらいなら持ってるけど』
小包に包まれた砂糖菓子を取り出して、青年に突き付ける。
彼は「天の恵みだ」とでも云わんばかりに潤んだ眼を輝かせると、喜んでそれを受け取った。
「あ、有り難う御座います....！！」
早速小包を開き、彼は砂糖菓子を摘んで口に放り込む。
『....アンタ名前は？』
「えっ？」
突然名前を問われたものだから、青年は戸惑ったように砂糖菓子を噛んでいた口を止める。
然し恩人だ。此処で云わない訳にはいかない。
「中島.....中島敦です........貴女は？」
『私？私は
─────島崎A』
Aは、靡く長い黒髪から眼を覗かせた。
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作者名：椿 | 作成日時：2024年4月16日 20時
