wake up at dawn [green] (ページ12)

今日:3 hit、昨日:1 hit、合計:38,071 hit

＿あと72日ページ12

星の降る夜だった

｢A様、今日は星空が綺麗ですよ｣

｢そうね、それなら少し出ましょう｣

お嬢様に羽織を渡し、僕は一応拳銃をジャケットの内側に、猟銃を肩に掛け、近くの森の中にある湖畔へ歩いて行った

｢大丈夫でございますか？お嬢様｣

｢貴方と居るもの。大丈夫よ｣

猟銃を背負っていない側の手はA様と繋がれていた

やっと森が開けたところに、湖が有り静かな水面には星が映っていた

｢おついちさんと一緒に見る事が出来て嬉しいわ｣

｢折角ならお嬢様、ボートがありますしお乗りになりますか？｣

｢素敵ね、乗りましょ｣

少し年季の入った、手で漕ぐ式のボート

この静かな森で静かな水面の上には僕達しかいない

この広い世界の中で僕達二人きりの世界があるなんて…

｢ロマンチックね、今日の事は一生忘れないわ｣

A様がうっとりした顔で僕を見る

｢喜んで頂けてとても光栄です｣

パドルを漕ぐ手を止めた

｢おついちさん、こういう時に本物の恋人はどうするの？｣

分かりきった顔でA様は聞く

意地悪なお嬢様だこと

｢良いのですね？お嬢様｣

｢ええ｣

月明かりに照らされて優しく映ったお嬢様は儚くていつも以上に美しかった

｢目を瞑って下さい｣

僕にはそのお嬢様の唇を奪う権利があるのだろうか

お嬢様から与えられたのだろうか

確かに僕はA様のお召し物は選ぶし髪にも触れる

だけどいつもはA様が選ばれる時に迷ったら僕が頼まれるだけであって…

触れたいと切に願っていたけれど

｢…此処には誰も居ない、わたしと貴方の2人だけよ｣

A様の顎を手で掬えば愛おしい顔が至近距離にある

｢僕は執事としてこれまでの人生を全うして来たので下手かもしれません。こんな要望をされたことも初めてです。それでも宜しいですか｣

何も仰らないということはそれでも良いという事か

僕はゆっくりその美しい顔に近付く

キスをするのは何時振りだろうか

背徳感と高揚感を胸に、その柔らかくて甘い唇を奪った

この何秒かが永遠に感じた

｢…おついちさん｣

A様が伏し目がちで僕の名前を呼ぶ

｢何で御座いますか｣

それさえも愛おしい

もう僕はどうしたら良いんだ

その夜僕は与えてもらった自室に戻り

預かったままのA様の羽織を抱き締めて泣いた

この気持ちのやり場が無い

かと言って他の女で消化する気もない

僕は一体どうしたら…