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37話 ページ38

「………それ、でも」



ひかるくんは慣れた手つきで私の涙を拭ってくれるが、嬉しくない。

思い出すのはいつだってあの綺麗で大きい手だ。

慣れてない手つきで、そっとゆっくり、拭ってくれる、あの手だ。

この、手馴れた彼ではない。

「私は、はじめて、好きになった人と、今は幸せになりたいと思ってます」


「………ふうん、」


自分の気持ちを伝えるのが、精一杯だった。
黙り込んだひかるくん。そしてお互い声もないまま、不自然に抱き合って、いる。


ひかるくんの言っていることなんて、わかりきっていた。
……自分の色覚異常が他人に迷惑をかけているなんて、承知していた。


今だって青色がわからないから、空の色も海の色もわからない。


少し前になる。つきあって、2週間くらい経ったあとだった、気がする。

キヨさんに、前に海に連れていこうか、と言われた。

私はその時、上手く笑えなかったのだ。


「……ごめんなさい。海見ても、楽しくないだろうし」


「楽しくない、ねぇ」


キヨさんに申し訳なくて、頭が真っ白になったあの時のことはもう、思い出せない。




……あれ?あの時、きよさんあの後なんて言ったんだっけ。


こんな時なのに、こんな小さな出来事が頭の中を埋めつくしていく。

すると突然、ぐい、と顎を掴まれた。


すぐに、キスが出来そうな距離だった。


「……ここまでやっても落ちねえの、初めてだなぁ」


舌なめずりをしたひかるくん。私のことを、ねっとりとした視線で見つめている。口元は、笑っていた。


「なら、気持ちいいこと知って落とすしかねえわ」


「な、に………を」


ちゅう、と音がした。
唇に触れたのは、ひかるくんのそれだった。

ぞわぞわ、と全身に鳥肌が立つ。


気持ち悪さがひろがって、吐き気がした。



「…ん、っ〜〜!」


「は、口開けろ。今にきもちよく、してやる」



なんて酷い人、と心の中で初めて思った。


友達の頃はいい人だったのに、と笑顔で話しかけてくるひかるくんを思い出す。

それでも、現実は違って、目の前の彼はやめない。


ぬるり、とねじ込まれた下が口内を荒らしていく。


かくん、と私の膝の力が抜ける。

気持ちがいい、わけでなない。


「はっ、うそつけ。目が物語ってんだよ」


「……んぅ」



べたべたと、まるで自分のものとでも言うように、唾液を押し付けてくる彼。


どうしようも、できない。


もう、キヨさんにも、顔向けできない。

絶望で、涙が、とまらない。

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作品ジャンル:恋愛
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りんご(プロフ) - ちょこれえとさん» すみません、返信遅くなりました。好きになったと言って頂けて嬉しいです。これからも自分のペースで頑張っていきます! (2020年3月6日 13時) (レス) id: 72494e54b9 (このIDを非表示/違反報告)
ちょこれえと(プロフ) - めっちゃ面白いです!キヨのこともっと好きになれました! これからも頑張ってください!! (2020年3月3日 13時) (レス) id: cdd2774812 (このIDを非表示/違反報告)
りんご(プロフ) - みんさん» ありがとうございます!1番好きと言っていただけて嬉しいです。自分のペースで頑張らせていただきますので、これからもよろしくおねがいします! (2020年1月31日 23時) (レス) id: 72494e54b9 (このIDを非表示/違反報告)
みん(プロフ) - はじめまして!いつも拝見させていただいています!たくさんあるキヨのお話の中で一番好きです(^^)vりんご様のペースで頑張ってください。陰ながら応援してます! (2020年1月31日 18時) (レス) id: c336b5de5e (このIDを非表示/違反報告)
りんご(プロフ) - なおさん» 初めてのコメントをいただけて嬉しいです!年齢制限の方は別サイトになると思いますが、前向きに考えますね。ありがとうございます。 (2019年12月13日 19時) (レス) id: 72494e54b9 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:りんご | 作成日時:2019年12月10日 14時

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