36話 ページ37
この人は本当に何を言っているんだろう。
頭の中が真っ白になる。
そんな私に、笑いながらひかるくんはさらに近づいてきた。
喫茶店から少し離れたこの道は、人通りが少なくて、大通りに出るまで結構歩く必要がある。
逃げようにも、逃げられないのは一番私が知っていた。
ぎゅう、と握られた手は、熱かった。
「色んな女の子と経験してきたから、俺わかるんだけどさ」
「Aちゃん、サバサバしてるくせに、結構寂しがり屋でしょ?」
「……ひかるくんに何がわかるんですか」
「わかるよ。俺の手を振り払わないのが証拠でしょ」
振り払えないように、私を動揺させているくせに、それをまるで彼じゃなくて、私のせいだと考えさせるような、マジックだ。
わかっているのに、何も言い返せない。
「……目が見えないのも、本当に可哀想だよ」
「…………えっ?」
「ああ、ごめんね?君のゼミの教授が飲み会で零してたよ。最も君は1次会で帰ってしまった時にこっそり聞いたんだけどさ」
私の目の事情を知っているのは家族を抜いて、えみちゃんと御影くん、そしてキヨさんくらいだ。
そして、私のゼミの教授にもその話はしている。講義中などに考慮していただけるようにと、理解だけして欲しいと嘆願しに行って、秘密にもしたいと言ったのに。
頭の中が、もうなにも浮かばなかった。
ひかるくんはそんな私に、憐れむような、可哀想な目を向ける。
貧困の子供に目を向ける裕福な大人のように。
「あとね?君が色覚異常が理由で合コンで好きになった男に、こっ酷く振られたのも知ってるよ」
「……俺なら、そんなことはしないんだけどな」
甘く囁く。気がついたら、背中にひかるくんの腕が回っていた。
距離が縮まって、彼の香水の匂いがした。
「今付き合ってる彼氏だって、君の目のこと今は受け入れてても、いつか、君のことを呪うだろうね」
ひかるくんは淡々と続ける。
耳を塞ぎたいのに、彼に手を握られているせいで、体が動かない。
もう片方の手で握っているスマホも、震えているが、ひかるくんは気付かないふりをしている。
「外に出る時だって君はひとりじゃ生きられない。そして、同じ景色を共有できない。君のこれからなろうとしてる職業だって、音楽はいつまでも稼げるものじゃない。………きみは、いつだって」
やめて。
涙がぼろり、と零れる。
「いつだってきみは、人に迷惑をかける」
「それなら、俺に乗り換えた方が、幸せになれるよ」
180人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「nmmn」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
りんご(プロフ) - ちょこれえとさん» すみません、返信遅くなりました。好きになったと言って頂けて嬉しいです。これからも自分のペースで頑張っていきます! (2020年3月6日 13時) (レス) id: 72494e54b9 (このIDを非表示/違反報告)
ちょこれえと(プロフ) - めっちゃ面白いです!キヨのこともっと好きになれました! これからも頑張ってください!! (2020年3月3日 13時) (レス) id: cdd2774812 (このIDを非表示/違反報告)
りんご(プロフ) - みんさん» ありがとうございます!1番好きと言っていただけて嬉しいです。自分のペースで頑張らせていただきますので、これからもよろしくおねがいします! (2020年1月31日 23時) (レス) id: 72494e54b9 (このIDを非表示/違反報告)
みん(プロフ) - はじめまして!いつも拝見させていただいています!たくさんあるキヨのお話の中で一番好きです(^^)vりんご様のペースで頑張ってください。陰ながら応援してます! (2020年1月31日 18時) (レス) id: c336b5de5e (このIDを非表示/違反報告)
りんご(プロフ) - なおさん» 初めてのコメントをいただけて嬉しいです!年齢制限の方は別サイトになると思いますが、前向きに考えますね。ありがとうございます。 (2019年12月13日 19時) (レス) id: 72494e54b9 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:りんご | 作成日時:2019年12月10日 14時