16話 ページ16
キヨさんは、私の家の前に車を停めた。
「じゃ、また連絡する」
「はい……」
軽く荷物をまとめる。
キヨさんの、色んなことを知って、意外と楽しかったからか、少しだけ、名残惜しいなと思った。
それでも、人通りが多くなってからマスクと帽子を付け始めた彼を見て、かなり気をつけているんだなと改めて認識した。
早く、降りなくちゃ。
「そ、それでは、」
出ようとドアを開けると、車の中に引き込むように、運転席から手が伸びて、私の手首を掴んだ。
「……あ、」
マスクをしていて口元は見えないけど、彼と目が合う。大きな手が、私の手首を容易く掴んだまま、離さない。
熱の篭った瞳だった。
同じように、彼の手も、熱かった。
なにか言おうとして、彼はもごもごと口元を動かしているのだろう。しかし、マスクに遮られて内容がわからない。
やがて、すう、と息を吸って、もう片方の手でマスクを外した。
「……今日は、ありがと。なんだかんだ……Aと、いるの楽しかった、」
……気がする、と彼は遅れて続けた。
なんだろうか、この彼の、こういう素直じゃないところが、高校生のようで。
こっちまで、恥ずかしくなる。
「……わたしも、けっこうたのしかった、きがします」
多分顔が赤くなってるんだろうな。
と思って、彼と同じように返した。
キヨさんはそれを聞いて、ほっとしたのか、目尻を下げた。
「ほんとにかわいくねーやつ」
「キヨさんこそ、素直じゃないですね」
ぱっ、と彼は手を離す。私も開けたドアからすぐに外に出た。
「ありがとうございました。……また、連れてってください、ね?」
可愛くない発言ばかり、と怒られていたので、最後の最後に素直になってみた。
しばらく会わないだろうし、そこまで、可愛い発言ではないだろう。
ていうか、可愛い発言なんて知らないし。
と適当に考えて、1つお辞儀をして、家の中に入った。
✱
「……くっそ……最後の最後に……」
キヨは、彼女が家に入るのを確認してから、すぐに車を走らせた。先程彼女と世間話をしている時に、「私が家に入ったら早々に帰らないと、またお母さんに捕まりそうなので、キヨさんは早く帰ってくださいね」と言われたからである。
しかし、本当は気持ちの整理をつけるため、どこかに止まりたくてたまらなかった。
「……いきなり素直になりやがって」
キヨは先程の発言を思い返して、ニヤけた。
今日ほどマスクをしていてよかったと思う日はなかった。
76人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「nmmn」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
りんご(プロフ) - ちぃさん» コメントありがとうございます。かっこいいと言っていただけて嬉しいです。ここ最近リアルなどが忙しいので、更新に波があると思いますが、長い目で見ていただけると幸いです! (2019年11月21日 18時) (レス) id: 72494e54b9 (このIDを非表示/違反報告)
ちぃ(プロフ) - 7話まで一気に読ませていただきました!キヨくんかっこいいです。続きが楽しみです。無理しない程度に頑張ってくださいね! (2019年11月21日 9時) (レス) id: bc58f84b7f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:りんご | 作成日時:2019年11月10日 20時