キルミーアンドウェイト【呪術廻戦】【短編集】

札付きの不良【伏黒恵】 ページ48

「伏黒君、不良だったんだ」


「は？」



前回の任務があって、私は彼とデートまがいのお出かけをしていた。


おしゃれなカフェに、全部私が奢るからと言って。


本当は雰囲気に溶け込むかっこいい伏黒君を見たいからだけど。



「聞いたよ野薔薇から、強かったんだってね」



「…ボコっただけなんで」



喧嘩のうちに入るし、所謂不良だったんだろう。


式神使いとはいえ、近接戦で追い込む彼だから強かったに違いない。


五条先生が指導していたのだろうか。



彼は少し気まずそうに苦い香りが広がるコーヒーを飲む。


何も入れていないのに躊躇なく口にするその姿が少し愛おしい。


甘い物が苦手なんだろうか。



銀色のフォークがクリームとスポンジを切り分けたとき、伏黒君は目をそらしながら口を開く。



「嫌じゃないんですか」



確かに、怯えるようにかたどった言葉を落とす。


なるべく、私の目をみないようにする彼に笑いかけてみる。


笑みは言葉は驚くほど自然にこぼれてゆく。


あまりにも自然で自分の意思が誰かに乗っ取られてしまったのかと思うくらいだった。



「嫌じゃないよ、伏黒君は正義だもの」




すこしの、くうはく。


余白は、淡く滲んだ、いつかのパステルカラーに似た黒色だった。



「は、はい」


彼は俯いたかと思うとコーヒーを飲み干して、スマホを持つと私に礼をして帰って行った。



「野薔薇から連絡来たので、また」



あまりにも一瞬で都合が良すぎたけれど。


少し名残惜しいけれど。



また会う口実ができたのかもしれない。



恵君、私はね今日でもっと君を好きになったんだよ。

君の正義感に揺さぶられる恋心が、酷く愛おしい。

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