ウツシエショウジョ【轟焦凍】 (ページ1)

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パシャ

シャッターを切る音。この音が1番心地よい。レンズを除き、焦点を合わせ、人差し指に力を込める。同じ物は二度と撮れない。まさに、一期一会。その一瞬一瞬を大切に、私は今日も小さな旅に出た。

ある時は、陽の光を浴びる稲荷様。ある時は、自由の象徴、野生の猫。ある時は、人の心を表しているような風景を、この箱の中に収める。

パシャ

シャッター音が響き渡る裏路地。私の小さな“あ”という一言は、かき消された。音がなり終わると同時に、奇形な男性がこちらを向く。目が合うと、静かに私の元へ歩いてくる。

溢れ出す、殺意。それとは対称的な彼の穏やかな笑顔。そんな彼の態度が、一層恐怖を煽る。

私は人生最大の身の危険を感じ、踵を返して全速力で走った。首から下げているカメラが揺れ動き、私の邪魔をする。時々後ろを振り返ると、彼は尚も穏やかな表情で歩いてきている。私が走っていると言うのに、その距離は広がらない。

生憎、ここは人気の全くない裏路地。人気のある所へ出るには、もう少し走らなければならない。普段、歩いてばかりいる私は、体力はあるものの速さはない。諦めようとしていた時だった。

「きゃっ」

曲がり角から、紅白頭の男性が出てきて、ぶつかった。

「す、すいません。あの、助けて下さい！私今追われてて」

藁にもすがる思いで、男性に助けを求める。すると彼は、あぁ。と一言、呟いて私を匿う形で前に出た。

「俺はヒーローだ。安心してくれ。」

そう言って、構えた時だった。先程の男がこちらへ曲がり、紅白頭を見るなり舌打ちをした。

「チッ運が良かったようだな。だか、俺はお前を諦めない。」

「まて！！」

「じゃあな。俺はそのカメラがある限り、お前を狙う。」

奇形な彼はそれだけを言い残すと、どこかへ消えてしまった。私は安心して、紅白頭の男性にお礼を告げた。

「ありがとうございました。あの、失礼とは思いますが、あなたのお名前は？」

私は幼少の頃よりカメラ以外は全く興味がなく、ヒーローなどは完全なる無知である。

「俺の名前はショートだ。何も起きなくてよかったが、念の為家まで送ろう。」

そう言って、彼は裏路地を抜け、タクシーを捕まえた。

「これでこの子を家まで送ってやってくれ。お釣りは要らねぇ。」

そう言うと、1万円札を運転手に渡し、その日はお別れした。