ep.9 ページ10
Sara Side
『お前……戻ってきたんか』
『……また、捨てられてもうた、』
『おい、そんなこと言うたらあかん。そんな親お前から捨てたり』
『でもAは、』
『その名前やって最初の親から貰うたもんやろ。
全部捨て。お前は、お前だけのもんやから』
『やったらA、名前どないしたらええの』
『………セーラ』
『え』
『今日からお前はセーラや。ええな』
『……うん』
なんで、セーラやったんやろ。
今思えば酷い皮肉。
人に送られて、いつもの夜の私の部屋。
くだらなく繰り返す日々が寒く苦しく、やるせない。
孤児といえば、やからかな。
施設にも本あったし、「小公女セーラ」。
まあ、あの人が読んでるとも思われへんけど。
小公女セーラって、親死んで、でも生きてて大金持ちの令嬢に戻る言う話やろ？
私なんて多分親生きてるし、二番目の親にも捨てられるし。
なんで私がセーラなんや。
何とか、寝っ転がっていた冷たい床から起き上がって、時計を見る。
化粧を落とすために風呂へ行って、馬鹿みたい熱いシャワーを浴びた。
アーセナルの部屋から気配がする。
「他人」の気配。嫌やな。きっとアレやと、もっと夜が長く寒くなった。
朝が来た。それどころか昼だ。
青空とは反対に、私は鼠みたいに沈んだ気分で廊下を歩いた。
アーセナルの部屋をそっと覗くと、そこにはもう誰も居なかった。
ああ、違う匂いがする。
知らないその香りと、大好きな煙草の匂いとが混じりあって吐きそうや。
繋ぎとめてるはずやのに、ここまでは手出し出来へん。
ぐちゃぐちゃの歪んだ声が出そうになるのを、必死に堪える。
私が結婚したのは17の時やった。
どうしてもこの人を、誰にも取られたくなかった。
やから子供のふりをして、わがままを言った。
それは、マックに引き取られた時からずっと言い続けていたことで、ようやくアーセナルが折れる形で叶ってしまった。
始末屋の仕事を始める時やってそう。
私も仕事をやりたいと言った時、最後まで反対したのはアーセナルやった。
子供やからとか、女やからとか散々言われたけど、最終的にはアーセナルが仕事のやり方を教えてくれた。
紙上の偽装結婚が私を守り、私を責め立てる。
私の勝手に立てた操が、私をどんどん追い詰めていく。
どうすればいい。逃げられへん。
感情、環境、相手。
また泣いてる、と気づいた。
嫌な恋愛や。
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作者名：ゆうみ | 作成日時：2020年8月22日 11時
