ep.39 ページ40
Arsenal Side
「ねえ、アーセナル」
「トッポどうした」
「これ」
手元のノートパソコンを、トッポが俺の眼前に突きつけてきた。
見た所、いつもの依頼メールが液晶に表示されていた。
For 8UPPERS
From NAMELESS依頼希望。
詳しくは二週間後の日曜、ClubEIGHTにて。
「これがどうしたん、ただの依頼やろ」
「変やんか。」
「ん？」
「"NAMELESS"……。おかしいと思わへん？」
「"NAMELESS"って、名前が無い、"名無し"言うことやろ」
「普通、このフォームを使うてメール送信した場合、名前の欄が空白やと、"UNKNOWN"ってデフォルトで表示されるはずやの。
つまり、この依頼人はわざわざ"NAMELESS"って打ちこんでんねん」
「そんなん、どうだってええやん」
「やけどさ普通、"匿名"やったら、その他大勢って意味の"ANONYMOUS"やで」
「……」
「怪しいやろ？
それに、指定してくるのがここやで？
僕らの拠点を知ってるってことやし、少なくともただの一般人と違うと思うねん」
「誰か分かれへんのか」
「IPアドレス調べたけど海外のサーバーを経由してて、到達出来へんかった。使用Wi-Fiも無理。
発信先不明、特定不可能…。
完全にこっち側とは言えへんけど、何か警戒する所があるんやろうな」
そこまで言うと、トッポはまた画面に目を戻した。
「用心に、越したことない。
逆に言えば、ここには俺らしか居らへん。
油断してて襲撃でもされたら困る。
俺らのこと疎ましく思うてる同業か、それとも組織か、団体か、幾らでも可能性はある。
ただの依頼と違うって皆にも俺から言うとく」
「了解」
For 8UPPERS
From NAMELESS依頼希望。
詳しくは二週間後の日曜、ClubEIGHTにて。
……"NAMELESS"
心当たりが無いとは言わない。
やけど、そんな訳が無い。
そんな訳は。
………
当日。
営業終了後、俺等はスーツに着替え、薄暗い店内でその"NAMELESS"の襲来を待った。
手には皆、各々武器を握り締め、表にはclosedのプレートが掛かり普通の客は入ってこないその扉を見つめた。
しばしの沈黙の後、両開きのその重いドアが、少し動いた。
ドアを取り囲むように、半円の態勢を取っている俺等の腕が一斉に挙がった。
扉と平行に位置する俺は、黒いクロークのフードを被り、頭から足首まで覆い隠されている"NAMELESS"の姿を一番最初に見た。
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作者名：ゆうみ | 作成日時：2020年8月22日 11時
