ep.40 ページ41
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"NAMELESS"は向けられた銃口や視線に怯えることも怯むこともなく、入ってきた。
そして、真正面に居る俺を…見た。
「腕下げろ」
「いや、アーセナル」
「……」
白い腕がクロークからゆっくり出て、フードを脱いだ。
「セーラ！」
マックとエース、それからガムの声が大きく重なって響いた。
俺はその声を待たずに、その黒い女の元へ駆けていた。
力一杯､つい先程まで2丁拳銃を握っていた両腕で、一度は俺の人生から去っていった愛を抱き締めた。
その身体は氷のように冷たく、貪るように頭を撫でても、抱き締め返すことはなく、ただされるがままに直立していた。
離して顔を見ると、俺の知らない顔をしていた。
でもこの眼は知っている。
眼だけは今まで星の数ほど見た眼、復讐に燃える女の眼をしていた。
誰も俺に遠慮して、声を発さなかった。
「…どうして」
「ごめんなさい、あたし逃げたのに」
「そんなこと、ええねん。とにかく……」
「殺したい奴が居る」
「え」
………
俺等はセーラをソファに座らせた。
改めて見たその顔は、安堵と歓喜で一杯の俺等とは対照的に、最後に見たセーラとは別人のようにやつれていた。
俺は隣に座り、もう逃すまいとその痩せた肩を抱いていた。
マックが切り出した。
「セーラ。帰って来てくれてほんまに嬉しい。
でも、どうして？
さっき言うてたこと、きちんと説明して」
「ほんまに、ごめんなさい。
何も言わんと居なくなってしまって。
……何処迄、皆知ってる？」
「………✕✕に、男と。そこまでや」
「……そう。その男って言うのがこの人」
セーラはローテーブルの硝子の天板に、一枚の写真を出した。
そこには、気持ちの良え笑顔を称えた男がこちらを向いて笑っていた。
「私、✕✕町でこの人と結婚したの。
慎ましいし地味やけど、幸せやった。
伯父さん夫婦に色々助けてもらって、ほんまの娘みたいに可愛がってもらった。もちろんお義母さんにもお義父さんにも、とても。
普通の家族ってこんな感じなんかなって……そう、思うた。
せやけど、長くは続かへんかった…。
彼は、伯父さんのツテである会社に入ったの。
その会社で彼は、横領を発見した。
正義感の強い人やったからね、彼は告発せずには居れんかってん。
でもその横領は、実は不正に政治資金に横流しされていた。
暗黙の了解で、見つけてはいけないお金やった……」
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作者名：ゆうみ | 作成日時：2020年8月22日 11時
