ep.3 ページ4
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でもセーラは、1年足らずで戻ってきた。
金持ちの夫妻はセーラを「育てられない」と、まるでモノのように返品してきた。
職員にまくしたてる二人の後ろで、セーラが突っ立っていたのが昨日のことのように思い出される。
真っ黒な目。どこも見ていない視線。
セーラは、二度も親に捨てられてしまった。
俺はセーラが戻ってきてくれて、嬉しかった。
けど意外にも、あのアーセナルが何度も安堵の言葉を口にしたことは驚いた。
ともかく俺らは、この子を全員で守ることを決めた。
二度も捨てられたセーラを、やっぱり捨てられた俺たちが必要とすること自体が、俺たちも同時に救っていた。
それは、マックが始末屋を始めた後も変わらへんかった。
始末屋の仕事が安定した頃、皆が居なくなった施設に一人残っていたセーラは15歳になっていた。
マックはそんなセーラを養女にして、同じ屋根の下に入れた。
長い時間が過ぎて、セーラはきれいに育って、今や大勢の男たちを夢中にさせてんねやから、少し驚く。
俺らにとってはいつまでも赤ちゃんで、子供やから。
「私の話してんの」
「あ！……セーラちゃん、今日は遅いね」
「私、暇とちゃうねん。で、何飲むん」
「いや、もう…」
「何飲まはるん、って言うてんの」
「あ、えっとじゃあ…」
冷たい目線で短い金髪を耳掛けして、強引に注文を取るセーラ。
セーラがあまり店に出ない理由は、隣町のレストランで歌手をやっているからや。
俺も一回トッポと観に行ったこともあるけど、ロングのウィッグといつもやない化粧、やさしい笑顔で静かに歌っててびっくりした。
とにかく、セーラは誰のモノにもなられへんし、誰のモノにもならへん。
それだけは変わらへん事実で。
今日もセーラは歌をうたい、この街のむせ返る夜を生きている。
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作者名：ゆうみ | 作成日時：2020年8月22日 11時
