るろうに剣心もう一つの伝説《瀬田宗次郎編》《京都大火編》《伝説の最後編》 (ページ15)

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弐什玖ページ15

「ダメですよ。まだ寝ていてください。」

「え…は、はい……」

肌寒いのか、鼻から口を毛布で覆う。

月の光がAさんを照らす。
白く輝く肌は、艶のある黒髪とよく似合っている。

目を伏せていると、長い睫毛がよく分かる。

「あの…Aさん。」

すごく綺麗だった。
この月夜に負けないくらいに。

「…ん？」

伏せていた目をゆっくりと開け、僕を見つめる。

月明かりのせいで瞳が茶色く輝いている。

もう…何もかもが綺麗だ。

「…てか私生きてるじゃん…。命が惜しかった訳じゃないけどさ、助けてくれてありがとう。」

あぁ、先に話題を切り出されちゃった。

「いいんです…僕の意思ですから。それに…僕にはAさんに生きててほしい…」

「……え？あ…そっか。志々雄に渡さなきゃいけないもんね。」

「え…あ、違うんです。志々雄さんには渡したくない。」

何だよ。
動揺しちゃって、僕らしくないしかっこ悪い。

「じゃあどうしたの？あ、もしかして私を売ろうとか思ってた？」

違うよ…
全然違う。

「…ごめん、嘘だよ！そんな泣きそうな顔しないの！」

笑ってふざけながら言ってるけど、本当に僕は…泣きそうなんだよ。

「…別に泣きません。泣きませんし、泣きそうな顔もしてません。」

すると、Aさんが何かを思いついたような顔をして布団から起き上がった。

「あのさ、私のことは呼び捨てでいいよ！」

呼び捨て…か。

なんか、なんて言うか…ドキドキする。

初めてだよね。Aさんを呼び捨てだなんて。

せっかくのチャンス。
やってみるしかない。

「…それじゃあ…えと、A…」

「…そうそう……ありがと…」

……なんだろうこの沈黙は。←

「いや、その、なんか恥ずかしいよね…あはは…」

よく見ると、Aさん…じゃなくて、Aの顔が真っ赤だ。

僕だって恥ずかしい。

きっと僕も、顔が真っ赤。
顔が火照っているのが分かる。

さっきまで寒いと感じていた秋のそよ風が、今は心地いい。

好きな人の名前を呼び捨て…なんて、そう経験できることじゃない。

少なくとも僕の人生の中で、こういう場面がやってくるなんて思ってもみなかった。

だから………だから、今言わなくちゃ。

勇気を出して、今言わなくちゃ…きっともう言えない。

Aが僕のことを嫌いでも…それでも伝えたい。

僕は目を瞑って、弾む鼓動を落ち着けた。