【文スト】境界の栞 Ⅵ【太宰治】 (ページ50)

今日:9 hit、昨日:16 hit、合計:29,171 hit

274葉ページ50

『街も無事だし、成金背広は吹っ飛んだし、鏡花ちゃんも合格。ちょっと肝も冷えたけど上手くいってよかった。
お疲れ様、敦君。鏡花ちゃんもよくやったね。おめでとう』

「……はい！」

「敦のお陰」

『おー、お熱いねえ』

治と芥川君(あっちはあっちで)もちゃんとやってるだろうし、あとは後処理だけ───
そんな事を考えていた私は背後で敦君が鏡花ちゃんに何か囁き頷きあっていることに気が付かなかった。そして、次の瞬間。

「えいっ！」

『うわっ……！？』

私は二人に背中を押されていた。
よろめいてボフッと顔面から誰かに支えられたのに気がついて慌てて跳ね起きる。芥川君だった。

「Aさん……！？」

『おっと……御免ね』

支えてもらい立ち上がると、最後に会った時よりも幾分か背が伸びていていつの間にか背を抜かれている様だ。

『何時の間にこんなに大きくなってたのかー……』

「……僕も、成長しています」

『じゃあちゃんとご飯食べてるよね？』

……目逸らされたんですけど。

『全く手が掛かるんだからさぁっ！』

「〜〜～ッ！？！？」

わしゃわしゃと頭を撫でると、慌てたようにバタバタする芥川君をギュッと抱き締める。
頑張ったんだもん、今日くらいはこうしてもいいだろう。

『ずっと見てたよ、船上の戦いも牧師を撃破したのも』

「何、故……」

『当たり前だよ、大事な弟子だから心配じゃない。
───君の頑張りのお陰だよ。私達だけじゃ無理だったし、君ならきっとやってくれると思ってた。
……強くなったね、芥川君。ありがとう』

「……っ」

フッと芥川君の躯から力が抜け慌てて抱き留める。気を失ってしまったのだろう。よく見たら泣いてるし。

『……泣かしちゃったな』

「……君はいい加減自覚し給え」

『痛い！えっホントに何で！？』

治にデコピンを食らった。解せぬし地味に痛い！
痛さに悶絶している私はまたもや小さな治の呟きに気がつくことは無かった。

「悪いけれど───君に渡す気は無いよ、芥川君」

こうして───横浜を巻き込んだ巨大な異能力戦争は幕を閉じたのだった。
ヨコハマの街はいつになく綺麗に見えて、私は静かに微笑んだ。