【文スト】境界の栞 Ⅵ【太宰治】 (ページ49)

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273葉ページ49

『鏡花、鏡花聞こえる！？』

｛……お姉ちゃん？｝

よかった、背後から凄まじい音はするけどギリギリ繋がってるみたいだ。通信設備はギリ破壊されてないらしい。

『時間ないから手短に伝えるよ。
───貴女を、正式に探偵社員として合格とします。……後は分かるね？敦君が待ってる』

｛……判った｝

それを最後に無人機との通信が途絶えた。今度こそ設備が破壊されたのだろう。

「却説……私達も行こうか」

『うん、そだね』

《港》
「けほっ、けほっ……」

「そんな……如何して彼女が……如何して……」

その言葉に、芥川がゆっくりと立ち上がって呟いた。

「鏡花……愚か者め。光に生きる希望さえ抱かなければ……無駄に散らずに済んだものを」

───闇に咲く花は闇にしか憩えぬ

あの紅葉の言葉が過ぎったような気がした。
やりきれなさに地面に手をつき、声にならない声が漏れる。

「……これで善かったのだよ、敦君」

「太宰さん、Aさん……」

『……よくやってくれたね』

その言葉に敦君は黙って強く首を横に振った。

『鏡花ちゃんは、自分に克ち街を救った。探偵社に相応しい高潔さで……望みを叶えたんだよ』

「でも……でも！彼女が死ななきゃならない理由なんて何処にも……！」

「確かに厳しすぎる結末だね。でもそうしなくてはならない理由があったのだよ」

「……？」

『社長(・・)、お疲れ様です』

コンテナの合間から現れた社長に軽く会釈しつつ、私は解説を続ける。

『社長の異能───〈人上人不造(ヒトノウエニヒトヲツクラズ)〉は自分の部下…つまり探偵社員にだけ発動する。効果は“異能の出力を調整し制御を可能とする”制御能力。
そのお陰で敦君はこうして虎の異能を制御出来るようになった訳だからね』

「そして鏡花ちゃんは入社試験に合格した……衝突の直前にね。それが如何いう事か判るかい？」

敦君がハッとして振り返る。そこに居たのは、夜叉白雪に守られるようにして立つ鏡花ちゃんの姿だった。

「夜叉の刀で鎖を斬って脱出した」

敦君が駆け寄り抱き締める。熱々だ。

「……痛い」

「悪かったね二人とも秘密にして。そうでないと入社試験の審査にならなかったから」

(「最後は山？」「海だ」『了解』)

「───若しかして……最初から、全部……？」

その問いに、私と治は目を見合わせ───ニコッと笑った。